35話 フラフレは温浴施設を利用してみた
「思ったより人がいなかったね……」
国営の温浴施設を利用してみた感想をアクアに正直に言った。
前にアクアから、「民衆は各家庭に風呂設備がないため、温浴施設で入浴をします」と教えてもらったことがある。
だから私のイメージではもっと人がわんさかいて、浴槽が満員になるくらいの盛況ぶりかと思っていたのだ。
「私も久々に一般開放日に顔を出しましたが、想定していたよりも少ないですね」
「みんなお風呂好きじゃないのかなぁ……」
「そんなことはないと思います。それだけ余裕がないということでしょうか……」
アクアが意味深な発言をしてきた。
私がこの温浴施設でキャッキャキャッキャと満喫し終わるまでそう言いだすのを待っていたような気もしてしまった。
「どういうこと?」
「元々リバーサイド王国は常に雨が降り続き、ごくまれに雲だけの日になる気候の国です。そのため食料不足であるため、作物を作りだすことで毎日必死になっています」
「大変なら、なおさら休憩やリフレッシュって大事じゃないの?」
「したくても出来ないのが現状でしょう……。陛下もできる限りの供給や支援をしているのですが、それでも満足のいく暮らしはほど遠いのが現実です」
「そんなに深刻だったなんて……」
やはりアクアは想定以上とは言っていたけれども、利用者が減っていたことは知っていたのかもしれない
私は温浴施設で満喫させてもらった。
人それぞれだとは思うが、入浴というのは疲れが取れるし、大変なときこそ癒しも必要になってくる気がする。
「どうやったら余裕が生まれると思う?」
「そうですね……やはり食が充実してくれば。今はフラフレ様の野菜を出荷して徐々に民衆に届くようにしていますが、やはり王宮の農園だけでは全民間人にはとてもとても……」
「そっか。じゃあ明日から、午後は王宮以外の畑の手伝いもしよっかな」
「はい?」
お昼前までは王宮の土とたわむれ、午後はまた新しい土とご対面。
私にとってはむしろ天国だ。
さらに、理屈や理由はわからないけれど、私が育てると農園の野菜はなぜか早く成長してくれるようだ。
だが、アクアはあまり良い顔をしていないからなぁ……。
王宮以外で野菜を育てちゃうのはマズいのかな。
「フラフレ様はどうしてそこまでお手伝いをしようという意欲が出るのでしょうか?」
「どういうこと?」
「王宮の農園だってそうですよ。金貨をしっかりと受け取るという話で進んでいたはずです。しかし、報酬は受け取っても、毎晩になると陛下の枕元に返しているじゃないですか」
「あぁ、バレちゃってた?」
「当たり前ですよ!」
金貨はたくさんもらった。
金貨を部屋に飾れる箇所が、もうないのだ。
「はぁ……フラフレ様の欲のなさは素晴らしくも思いますが、ある程度は対価を受け取るべきことだとも思います」
「そうなの? でも、もう部屋に飾れそうな場所が……」
「そもそも金貨は飾るものではありませんからね!」
アクアの言うことは従うようにしている。
だから、今回アクアが言ってくれたように、報酬の硬貨は今後はしっかり受け取ることにした。
「それ相応の対価を受け取らないと、相手のためにもならないこともあります。人にもよりますが、タダでやってくれるなどと、相手の好意を踏みにじるような発想をされてしまう場合もありますし、もしくはあいつのところじゃタダでやっていたのに俺には金払ってかなどと思われてしまうこともありますよ」
「ずいぶんとリアルな言い方だね……」
「はい。フラフレ様には演技をして表現したほうがよりわかりやすいかと思いますので」
意図はよくわかった。
だが、私の野菜作りってどれくらいの価値があるのかよくわからないし、そもそも硬貨がどれくらいの価値なのかもわからない。
「えっと、金貨の下に銀貨。そのさらに下に銅貨で一番下が黒貨だっけ?」
「はい。黒貨一枚でパンが一個手に入ると思ってくだされば良いかと」
「じゃあこれからは畑ひとつにつき、黒貨三枚にしよっ!」
畑で遊んだ上に、パンが三つも買えてしまう。
こんなに美味しい話はそうそうあるものではないだろう。
アクアはとんでもなく呆れているけれども……。
「はぁ……。申し訳ございません。私が間違えていました。やはりフラフレ様には、そういう大人的な話は考えないほうが良さそうです。こちらで済ませておきますので、フラフレ様は思う存分どろんこ遊びをお楽しみください」
「うん、アクアに任せちゃうね」
私も助かった。
アクアの話を聞いていると、「野菜作ったから硬貨ちょうだい」とかそういう文化があるのだとは思った。
だが私の場合は、私自身もどろんこ遊びで存分に楽しませてもらっている。
お互いにメリットがあるんだから、硬貨云々の話ではないと思うんだけれどなぁ。
まぁその辺は私はよくわからないし、アクアのほうがしっかりとやってくれそうだから任せてしまうことにした。
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