30話 フラフレの固定概念は崩壊した
「こちらが書庫になります」
「うわぁ~すごく広いんだね」
「リバーサイド王国の書庫は扱っている冊数が世界一だそうです」
一言で、すごいとしか言えなかった。
見渡す限り、何段にも渡って部屋中にビッシリと保管された本の山。
ところどころに本を読むための椅子とテーブルまで用意されている。
「アクアも一緒に本を読むの?」
「いえ、本日はフラフレ様のお手伝いをさせていただこうかと。初めてでしょうから目的の本を探すにしても苦労するかと思いますので」
「ありがとう」
「どのような本をお探しでしょうか?」
「えぇとね、農業に関する本が読みたい。わからないことがあって」
そう答えると、アクアは首を傾げながら不思議そうな表情をした。
「フラフレ様は農業に関して独自の技術がありますし、完璧かと思いますが」
「独学だから、本当はどんな方法で育てるのか調べたいんだよね」
「承知しました。農業の基礎知識や作物の本などを用意してきましょう。それとも、大まかな場所だけご案内させていただき、ご自身で探してみますか?」
「じゃあ、せっかくだから選んでみたい」
「ではこちらへどうぞ」
アクアは迷うことなく、農業に関連する本があるところまで案内してくれた。
こんなにたくさん本があるのに良くわかるなぁ、と感心するばかりだ。
「こちらですね」
「アクアってすごいよね。全部の場所を知っているの?」
「いえ、フラフレ様が読まれそうな場所をあらかじめ調べておきました」
「私が農業の本を読むって思っていたってこと?」
「あれだけ農場で楽しんでいましたからね」
アクアの言うとおり、私は農業や土のこととなるとすぐにはしゃいでしまう。
もしもフォルスト陛下に見られでもしたら、ドン引き確定だろう。
だがこればかりは譲れない。たとえドン引きされても土や野菜とはずっと友達だ。
私の生きがいでもあるし、ありのままでいたいと思っている。
「『野菜の育て方』『畑を耕す』『土の一生』これ、全部農業に関するものだよね」
「おそらく……。私も読んだことはないのでハッキリとは言えませんが」
「よーーし。じゃあさっそく読んでみる」
椅子に座って本を開くと、文字がギッシリ……。
文字を覚えたばかりの私にとっては、かなりの衝撃かつ負担ではあった。
だが、なんとか読むことができる。
ゆっくりではあるものの、書かれている内容が着実に理解できている気がする。
一方、私の隣ではアクアが全く別の本を読んでいる。
「なんの本を読んでいるの?」
「ひ……え、えぇとですね。フラフレ様にはまだ早いかと……」
「ふぅん……?」
「申し訳ありません。あまりにもフラフレ様が集中しているので、私も本を嗜もうとしたのがいけませんでしたね」
「そんなに隠さなくても……」
「いえ、さすがにこの手のジャンルはフラフレ様に教えるわけには……」
そうは言っても、本のタイトルはちらっと目に入っちゃったからなあ。
『女性を口説くための』という文字は見えたが、そのあとの文字は見えなかった。
アクアは持っている本を隠すようにして元の本棚へ戻しに行っちゃったし……。
(『口説く』ってどういうことなんだろう……?)
謎は深まるが、今は農業の本に集中しよう。
……本を読めば読むほど、私は混乱してきた。
文字は読めるようになっている。
本に書かれている文章の意味もわかるが、今までの常識が覆されてしまったのだ。
「フラフレ様? 難しそうな顔をされていますが、読めない箇所がありましたか?」
「ううん、大丈夫。ゆっくりだけれど読めているよ」
「一日で文字を読めるようになるのは素晴らしいです。でも、だとすれば……」
「キャベツを植えてから育つまで二ヶ月かかるって……」
「本にはそう書かれていますか?」
「しかも、葉っぱを植えて育てるなんてどこにも書いていないんだよー」
「あぁ……」
一体どうなっているのだろう。
今まで、野菜は種がなくても葉や芯があれば育つのは当たり前だと思っていた。
アクアも以前そんなことを言っていたし、本に書かれていることも事実だろう。
「んぅうう、どうなっているんだろう~?」
「そう仰るわりには楽しそうですね」
「だって、今までわからなかったことを知れているんだよー。これってすごく嬉しいことでしょ?」
「フラフレ様はいつも前向きで好奇心旺盛ですね」
アクアは嬉しそうな表情をした。
色々と覚えていく上でそれを褒めてもらえるとは、私はなんて幸せ者なんだろう。
王宮の人たちはみんな優しくて大好きだ。
こうなったら、なんとしてでも聖なる力を取り戻し、国に貢献してフォルスト陛下やアクアが喜んでくれる顔をもっと見たい。
「よぉぉぉおおおおしっ!!」
「書庫の中はお静かにお願いします」
「ごめんなさい……」
目標の第一歩は、アクアを喜ばせるどころか困らせてしまった。





