28話【ハーベスト王国サイド】牢屋を徹底的に綺麗にしなければ
廃棄処分と称しフラフレを国外追放してから、ジャルパル国王の仕事は増えた。
だが、ジャルパルとしてはお荷物がいなくなったからこそやる気に満ちていた。
今日からフラフレが使用していた地下牢獄の後処理をおこなう。
「この地下牢には、フラフレという孤児院出身の汚れた低俗な空気が混じっている。このままだと気分を害するからな。徹底的に清掃し、指の跡一つ残さぬように!」
「承知しました。こちらの地面も石畳で塞いでしまってよろしいのですね?」
ジャルパルに命じられた部下たちの一人が、念のために確認をした。
これは清掃作業と、地下牢獄をより強力なものにするための工事でもある。
「無論だ。そもそも土の状態ではやろうと思えば脱獄も可能になってしまうからな。フラフレの場合は体力も筋力もないからと放置していたが、今後入れるかもしれない囚人はどうなるかわからぬ。今のうちに改善しておいたほうが良かろう」
「ではそのように」
「しかし……、石畳は前々から徹底しておくべきであったな。まさかフラフレがこんなところで野菜を栽培するとは思いもしなかった。だが、一体どうやって種を……」
「私は一切そのようなものを朝食の配給と一緒に渡したりはしていません!」
「わかっておる。お前がフラフレに対して嫌がらせをしていたことも知っている」
「げっ……。そんなことまで……」
フラフレの元配給担当は、慌てて弁明した。
いくら囚人相手とはいえ、勝手な行動をしたことがバレてしまえば首が飛びかねると思ったからである。
だが、ジャルパルは怒るどころか、むしろ笑みを浮かべた。
「怯えることはあるまい。そなたの行為は命令の範囲外ではあったが、気分が良いものであった。特に、潰れたパンを支給したときはスッキリさせてもらったよ」
「お、お褒めの言葉、感謝いたします……」
「これからもそなたには期待しておる。今後は見苦しい囚人が入るようなことがあれば、是非ああしてくれたまえ」
「ははっ! 陛下に報告することができず申し訳ありませんでした!」
元配給担当はジャルパルに深々と頭を下げたが、叱責されることはなかった。
「しかし、やはりどうやって野菜を育てていたのかは気になるが……」
「私も気がかりな点がありました」
「ほう、申してみよ」
「ここで野菜を栽培していたとはいえ、一日一度の食事とそれだけで長い年月を生き延びるような食事量ではありません。いつになったら栄養失調で死ぬのだと不気味に思っていましたが、なぜ廃棄処分になるまで生きていたのでしょうか?」
毎日、フラフレの食事を管理していたからこそ不思議に思っていた元配給担当。
彼は食事を届ける仕事を終わりにしたかったため、早く野垂れ死んでもらいたいとすら願っていた。
だからこそ、ずっと疑問になっていたことをジャルパルに問いかける。
「あぁ、それは私もずっと考えていた。聖女という人間はタフなのだろう。しかし、貴族聖女たちを実験体にして確認するわけにもいかん。考えたくもないがまた運悪く民衆の中から聖女が出てきたら、今度は実験しようと思う」
「なるほど……。そのための工事でもあるのですね!」
「そうだ。今度は勝手に野菜を育てることができぬようにするためでもある。さぁ、わかったら作業に取りかかってくれたまえ」
♢
地下牢の工事も終え、数日がすぎたころ。
工事の担当者となった元配給担当の男がジャルパルのところへと駆けてきた。
「陛下……、妙なことが起きたのですぐに地下牢へ来ていただけませんか?」
「なにごとだ? こんな朝早くから……」
ジャルパルはしぶしぶ地下牢へ向かう。
しかし、フラフレが使っていた牢屋の奇妙な光景を目の当たりにし、呼ばれた理由にすぐ納得した。
「これは……、石畳が割れたというのか。しかもたかが雑草のせいで……」
「そうなのです……。確かに土を石畳で塞いだのですが……」
ジャルパルたちが驚くのも無理はなかった。
まるで土が抵抗するかのように、石畳を突き破って植物が生えていたのだから。
「フラフレのやつめ。一体、土になにをしたというのだ……?」
「いかがいたしますか?」
「うぅむ……」
ジャルパルは悩みに悩んだ。
日の当たらない地下牢に敷かれた硬い石畳を、単なる草が突き破るなど怪奇現象のようなものだ。
実のところジャルパルはこれまでの言動に反し、フラフレが強力な力を持つ聖女であることを理解していた。
同時に、フラフレは聖なる力を常に自分のために使用していたと勘違いしている。
だからこそフラフレが嫌がらせに、土に不気味な細工をしたのだと確信した。
「あの女め……、最後の最後まで私に害をなすか……」
「と、言いますと?」
「フラフレは聖なる力を自身のためばかりに使っていたのだ。しかも廃棄処分されることに勘づいていたのだろう。故にこの土を、地下牢をメチャクチャにして使い物にならなくしようと小細工をしたに違いない」
「あのゴミ女め……」
「すぐさま部下に指示を出せ! フラフレがいた牢屋の土は全て回収し、フラフレと同様に国外へ廃棄処分せよ! この土が国内に存在していては不吉だ!」
「承知しました」
ジャルパルの命令の元、すぐに土は全て回収され、国外へ廃棄された。
だが、ジャルパルは知らなかったのだった。
フラフレが残してきた唯一の聖なる力が宿っていた土を廃棄処分してしまった。
そのため、ハーベスト王国からは、フラフレの力が完全に失われたのだ。
ジャルパルたちが気づくのは、まだまだ当分先の話である。
ここまで読んでいただき本当に本当にありがとうございます!!
今作品は他サイトではランキング1位になったりと、色々と作者本人が驚かされたりしています。
このまま毎日更新はしていきますので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
この後も引き続きよろしくお願いいたします。





