25話【リバーサイド王国サイド】 再びアクアとフォルストの会議(後編)
「仮にそうだとしても……、フラフレ様自身のお身体がボロボロでしたよね? もしそのような力があるのならば自身に回復効果を付与するはずでは」
「本人が気づいていない、もしくは加護を加えてもあれだけの状態になるような扱いを受けていたのかもしれんな」
フォルストはもう一つの可能性についても言及してみた。
アクアは当然のことのように納得する。
「あの国ならば、想像もできてしまうのが怖いですね……」
「やはりそう思うか。核心に迫ってきたから、私自らフラフレ殿に接近してみようかと思うのだが」
「そう言って、フラフレ様を口説くのですね? わかりますよ」
「違うわっ!」
フォルストは、このままではフラフレが自らの悩みを相談することも、過去を話すこともできないままになるのではないかと考えた。
だからこそ、少しでもフラフレのことを知りたい。そう思ったのだ。
「それならば私が報告しようとしたことも、そのまま実行しようかと思いますが」
「なにかあるのか?」
「フラフレ様は字の読み書きができるようになりたいと仰っていました」
「ほう」
フラフレには好奇心や向上心もあるのだなと、フォルストは感心しながらアクアの話を聞く。
「王宮書庫の入室許可はしていますが、加えて私が文字の読み書きを教えようかと」
「ふむ……」
「今、羨ましそうな顔をしましたよね?」
「ちが……」
「あらあら、いつもの口癖が止まっていますよ?」
「うむむ……」
フォルストは嘘をついたり誤魔化したりすることが苦手である。
そのことは長年フォルストの側近を勤めるアクアが一番理解していた。
だからこそ、アクアはフォルストの身体のことにも気を配っている。
「しかし、陛下も国務が忙しいでしょう? 教える時間が確保できるようになったら代わっていただいても」
「いや、今から明日の分を全て終わらせる!」
「は? 今、何時だと思っているのですか?」
あと数時間で日付が変わってしまう。
今から翌日の仕事を始めるとすれば、日が昇ってしまう可能性すらある。
アクアはさすがに無茶だと止めようとしたのだが……。
「終わらせると言ったら終わらせる! というよりフラフレ殿との時間を作るために仕事は先行してやっておいた」
「すでにやっていたのですか」
「あぁ。今日は調子が良くてな。集中していたら明日の分もほとんど終わっていた」
これはフラフレのことを想うばかりにできたこと。
そうアクアは勘づいている。
だからこそ、アクアはフォルストの力になりたいと強く思えたのだった。
「はぁ。フラフレ様のことになると本当にムキになりますねぇ。私も国務でお手伝いできることがあれば協力しましょう」
「本当か!?」
「今までだって陛下が過労死しそうなときはお手伝いしていたじゃないですか。それに野菜を食べたおかげか、元気なんですよね」
フォルストは素直に喜んでいる一方、アクアに申し訳なくも思った。
「しかし、さすがに今回ばかりは個人的な都合もあるわけだし……」
「いえ、仮にフラフレ様と陛下が結ばれれば、これ以上ないパートナーを手に入れたと言えますし、国のためでもあります」
「あまりフラフレ殿のことを国のために利用したくないのだがな」
「あらあら、陛下は本当に私利私欲で口説きたいのですねぇ」
アクアはからかい交じりに言うが、フォルストの表情は硬い。
「……初めてなのだよ」
「なにがですか?」
「謙虚で欲が全く感じられない者と対話するのがだ。私が前王の側近として仕えていたころから、地位を目当てに近づく者が多かったからな……」
フォルストは野菜が載っていた皿を見ながらフッと笑みをこぼした。
「フラフレ殿のワンパクな仕草も見ていて好ましい。……私のプライベートの心情は絶対に誰にも言うでないぞ?」
「言いませんよ。言ってしまえば私の楽しみも減ってしまいますからね」
「楽しみ?」
「陛下とフラフレ様の動向を見届ける特権は私だけのものです」
アクアもフラフレのことを良く想っている。
だからこそ、この件に関してアクアはフラフレの気持ちも大事にしたい。
王宮の者たちにフラフレの力が知られれば、聖なる力を利用するためにフォルストと結婚させようとする輩が現れるだろう。
つまり恋愛結婚ではなく政略結婚になる。それはアクアとしても避けたいのだ。
「どうして私はこんなにもフラフレ殿のことを意識してしまうのだろうか……」
「恋に理由なんてありませんよ。陛下も人の子です。その感情はあって当然かと」
「そういうことではないのだが……、考えても仕方ないか。作業を終わらせよう」
「私は明日、別の仕事が入ったということにしておきます。どうぞ楽しいひとときをお過ごしください」
アクアの協力もあり、フォルストは作業を普段よりも効率良く終えた。
それだけフラフレと時間を共有したい気持ちが強いとは本人にも自覚がない。
だが、気持ちしだいで簡単に済むものでもない。
フラフレの栽培した野菜の不思議な力のおかげでもあるということを、フォルストとアクアは身をもって実感したのだった。





