2話 フラフレは聖なる力を失った
ジャルパル陛下の目線は地下牢の中にある土に向いていた。
「む? それは何だ?」
「あ……、これは」
土の中に隠しておいた野菜の一部が露出してしまっていた。
野菜だけは何とか助けなくては……。
「フラフレよ。まさか、ここの土で野菜を育てていたのか?」
「はい……。支給される食料だけでは到底生きていけませんから……」
私は正直に話した。
これで、もしかしたら少しは朝の支給もまともにしてくれるかもしれない。
だが……。
「なるほど。つまりお前はこの野菜に貴重な聖なる力を使い込み、国に対しては手を抜いていたということだな?」
「違います! この野菜には……、あ!」
バリバリッ!
私の弁明は全く聞いてもらえない。
それどころかジャルパル陛下は、私が大事に大事に育ててきた野菜を土の中からむしり取り踏み潰してしまった。
さらに、その野菜に火をつけられ、もはや原型を取り戻せる状態ではない。
私の大事な生命線が……。
「無駄な力を使うでない。今後は農園の真似事も禁止だ。私欲ではなく国のために聖なる力を発動せよ。良いな?」
「う……うっ……」
ジャルパル陛下は恐ろしい笑みを浮かべながら、地下牢に鍵をかけていった。
大事に育ててきた野菜が一瞬で殺されてしまい、涙が止まらない。
ジャルパル陛下は全く理解してくれなかったのだ。
野菜を収穫できなくなった上に少ない食料支給だけでは、もう聖なる力は……。
それから数日後、ついに私は聖なる力を発動できなくなってしまった。
そのことを謝罪するため、食料配給の者に報告した。
「せっかく毎日こうやってエサを与えてやっているのに、まさか無力化するとは……。陛下に伝えておこう」
「申し訳ありません……。あ、私のご飯……」
「無力な家畜にやるエサなどない! こんなものはこうしてやるよ!」
食料配給の者は床にパンを落とし、そのまま足で踏み潰してしまった……。
潰れて泥まみれになったグチャグチャのパンを、私のいる地下牢の中へ放り込む。
「ほら、俺様が作り直してやったエサだ。感謝しろ」
ガハハハと笑いながら姿を消した。
しばらく悩んだが、私の空腹は限界だ。
汚れた部分を手で払って少しでも綺麗にしてから、潰れたパンを口にほおばった。
「あ、ちょっと硬くなっちゃったけれど食べられる。良かった……」
食事を終えてしばらくしてから今度はジャルパル陛下がやってきた。
すぐに地下牢の鍵を開けて、ものすごい顔で私を睨んでくる。
「申し訳──」
──パァァァァァアアアアン!!
「きゃああ!」
私は何度も殴られた。
悲鳴も上げられなくなったころには身体中を触られ、ジャルパル陛下のおもちゃにされるがままだった。
私が受けた屈辱は相当なものである。
「ふん。お前のような瘦せこけた不気味な身体なんぞに興味はないわい。だが一応確かめてみた。やはりお前なんぞに惚れるような男は金輪際現れんだろうな!」
「う……う……痛い、気持ち悪い……」
「全く……。クズのお前を拾って聖女の地位まで与えてやったというのに恩を返そうともせず、自分のことばかりに力を使いおって。こんな女では奴隷小屋に引き渡しても価値がつかぬ。……覚悟しておくことだな」
ようやく拷問から解放された。
この日は、もうなにもしたくなくて、ずっと寝たきりだった。
翌日は朝の食料支給はなく、代わりに鎧をまとった騎士のような人がやってきた。
「元聖女フラフレよ! 牢から出るが良い。陛下がお呼びだ」
「え? ここから出て良いのですか?」
昨日の拷問は何だったのだろう。
ずっと地下牢かと思えば今度は外でジャルパル陛下と対談か。
今まであそこから出してもらえることなんて滅多になかったのだが。
「あぁ、当時陛下が潰した孤児院の者たちと同じ処遇を下すと仰っていたぞ」
「え……」
それを聞いた瞬間、私の希望は完全に絶えた。