18話【リバーサイド王国サイド】フォルストとアクアの会議(前編)
アクアはフラフレという不思議な女の子が王宮に来たことでワクワクしていた。
最初は、『フォルスト陛下はまた人助けで貧民街の住人を連れてきたのでしょう』くらいにしか考えておらず、一般教養を学んでもらえば今後仕事も自力でできるようになると思っていた。
だが、アクアが思っていたことはあっさり覆された。
フラフレは常識知らずにしては度がすぎ、今までなにも知らなかったのだ。
なにに対しても感動し、土しかない畑に行った瞬間、目の色を変えた。
アクアにはフラフレが、土……いや、それだけではなく空を見上げたときに太陽と対話している女の子に見えた。
彼女はフラフレのことを、磨いたらとびきり輝く宝石のようだと感じている。
「……と、いう具合で以上のようなことがありました」
「ふむ……」
フォルストはアクアから、フラフレの一日の出来事を細かく報告された。
彼もまた、フラフレのことを不思議な女の子という認識に変わっていた。
「フラフレ殿が畑で遊びたいと言われたときもそうだが、それ以上に野菜の種以外を植えて育てるから分けてほしいというのを聞いたときは驚いた」
「何度も育つことはありませんと述べましたが、フラフレ様はニコニコしながらそれでもほしいと仰っていましたね」
「全くもって不思議な子だ。しかも、彼女が畑に行きたいと希望した当日、奇跡的に雨も止んだ。これなら野菜の種植えもできるかと思い少しばかり種も渡したのだが」
「フラフレ様は畑にいる間、本当に楽しそうでした。農業が趣味なのでしょうか」
雨があまりにも長く降り続いたため、王宮の農園担当は別の任務についている。
ようやく晴れ間が見えて農業再開のチャンスなのに手の空いている者がいない。
フラフレが楽しく農業をやるのならば、彼女に任せてみても良いかとフォルストは閃いた。
「フラフレ殿が希望するなら、王宮の裏の畑はしばらく好きに使わせても構わぬな……。まだ本来の使い道はないだろうがな」
「あら、陛下はそう言ってフラフレ様を近くに置いておきたいとお考えで?」
「違うわっ!」
「またまたぁ~、顔が赤いですよ? 畑で土と戯れているあのフラフレ様を見たら、きっと惚れるかと思いますよ。それくらい彼女はキラキラしているんです」
「ふむ……。今度見に行ってみるか……」
フォルストもまた、フラフレの不思議な存在に興味を持っている。
フォルストの部屋で二人がいつものように会議をしていると、ドア越しに農林大臣の慌ただしい声が届く。
「陛下! 裏庭に大至急来ていただけませんか!?」
「どうしたのだ?」
「奇跡です!」
フォルストとアクアは顔を見合わせる。
「「まさか……」」
二人は農林大臣と共に王宮の裏庭へ走って向かった。
♢
「いつ種まきをしていたのでしょう? この育ちから見て少なくとも一ヶ月はかかるはずです。それがいつの間にかこんなに……」
フォルストは、農林大臣が慌てて呼びにきた理由に納得した。
フラフレのことはまだ王宮内では周知されていない。
まして枯れ果てていた畑で、昼間に一人の女の子がどろんこまみれになりながら、きゃっきゃ、きゃっきゃと種まきしていたことなどほとんど知られていないのだ。
畑の状況を見たフォルストとアクアは、フラフレが奇跡を起こしたと確信した。
「これほどまでに立派な野菜は見たことがないな……」
「食べたらとびきり美味しそうですねぇ……。フラ──」
「アクアよ、ひとまず部屋へ戻ってから話をしたい!」
「も、申し訳ありません」
フォルストが話を遮るのは珍しい。
アクアはなにかマズいことを言ってしまったのだろうかと困惑する。
「農林大臣よ、収穫したい気持ちはわかるが外はもう暗い。ひとまず明日まで、私の指示を待って行動してもらいたい」
「は、はぁ。承知いたしました」
農林大臣は、フォルストの命令を不思議に思いながらも頷いた。
今までも、フォルストが理解できないような命令を下すことは度々あったが、どの命令も結果的に良い方向へ向かっていく。
今回もなにかしらの理由があるのだろうと農林大臣は気がついたのだ。
フォルストとアクアは元の部屋へ戻ってからこの奇跡について話すことにした。