127話
お店の雰囲気とは一転して、普通の応接室のような部屋だ。
「牢獄から解放されたのですね、おめでとうございます」
「廃棄処分されて追放されちゃったんですけど、今は元気に生活できています」
「事実上の処刑ではありませんか。よく生き延びられましたね。相当幸運なのでしょう」
「リバーサイド王国の国王陛下たちに助けてもらったんです」
「ああ、先日の謁見であなたのそばにいたお方ですね。失礼ですが、なぜご一緒に?」
「ええと……」
リバーサイド王国の聖女として活動していること。こっちの国のミーリを助けたくて来たこと。今はミーリのお手伝いができたら良いなと思って滞在していることを噛みながらも説明した。
不器用な説明でもしっかりと聞いてくれ、理解しようとしてくれることがとても嬉しかった。
「そうでしたか。無力で廃棄処分されたと噂で聞いていた聖女様があなたでしたとは」
そう言いながら女性はすぐに頭を下げてきた。
「私も当時、王宮内に無力な聖女がいるとやきもきしていました……。申し訳ありません」
「いえ、そんなこと気にしないでください」
「お優しいのですね。当時は断罪されてほしいと思っていた人たちが王都中にいました。ですが今は、追放された聖女が本物の聖女であると認識され、国王らに騙されていたのだと。その怒りは王族に向けられています」
王族全体だから、ミーリもそのうちの一人だそう。
「うーん……ミーリは悪くないんだけどなぁ」
「それであなたは女王陛下になられたお方を助けたいと……?」
「はい」
「私のような仕事柄ではお役に立てるとは思えませんが」
「いえいえ、今日ここへ来たのは、昔のお礼が言いたくてきただけですよ」
「他国の王妃になりそうなお方がそれだけのために……。大変光栄です」
どんな仕事をしているのかは教えてくれなかったが、この女性は昔と変わらずとっても優しいことだけは伝わってきた。
「話せば死罪だと脅されていましたが、あなた方には話しておいた方が良いかもしれませんね」
「脅されるだなんてひどい」
「どのみち長い間身体関係でも脅されていたようなものですから、慣れてしまいましたよ。ジャルパルの情報は話した方が良いかと思ったもので」
ジャルパルの行方がわからない今、なにを話してくれるのだろうと少し緊張した。
アクアはとても真剣な顔をしてじっと女性を見ている。
「彼はよくこの店に訪れていました。酔った勢いで呟いていたことで気になっていたことがありまして」
「ここから遠い国に、信頼できる知人がいる。行く機会があれば、その国をまるごと乗っ取り第二のハーベスト王国にするつもりだと言っていました。消息不明で国内におられないのだとすれば、もしかしたらそちらへ逃亡された可能性があるのではないかと」
「それってリバーサイド王国ですか?」
「いえ、確か……『ホーリネス聖国』と言っていたかと」
「ホーリネス聖国……」
アクアがその名前を聞いたとたん、珍しく動揺していた。
「アクアはその国を知っているの?」
「ええ……行ったことはありませんがある程度は。時々ホーリネス聖国から手紙などが送られてくるもので」
なんとなくこれ以上はここでは言えないような雰囲気を出していた。
「ひとまずあとで詳しくお話ししますね」
「そろそろお店の準備をしますので……」
女性はアクアになにかを訴えるような視線を送ると、アクアもそれに応えるかのようにニコやかに微笑んだ。
「ありがとうございます。この情報はとてもありがたいものになるでしょう」
「話して良かったです。お二人とも、もしもまたハーベスト王国へ来訪されることがあれば、是非」
「はい。フラフレ様と一緒にご挨拶に来ますね」
なんだか最後は慌ただしくなってしまったけれど、お店の準備は大事だし、長居はできない。
アクアから詳しく聞くためにも、この店をあとにしよう。
挨拶のつもりで来ただけだったけれど、ものすごく貴重な話が聞けたような気がした。
今回はミーリを助けるための緊急での訪問だった。けれど、また来れる機会があったら、このお店にも挨拶しに来ようと楽しみが増えたのだった。





