125話
「ごきげんようフラフレさん。ぐっすり眠れましたか?」
「おはよう。久しぶりのふっかふかぬなベッドをありがとう。…………へ!?」
ミーリの元気そうな姿に対して目を疑った。
昨日までは地下牢で幽閉されていた影響で、ミーリはゲッソリとしていた。しかし、今はそのような雰囲気が全くない。
「どうされましたか?」
「ミーリは大丈夫なの?」
「ええ。王宮直属主治医さんの処方してくださったものが効果絶大だったのでしょう。その成分が、フラフレさんの力で育った野菜だと言うのですから納得できます」
「私はなにもしていないからね。王宮ちょくじょちゅしゅじーの腕が良いからだよ」
プスっと射すやつのことだ。
ミーリが元気になったところを見ると、改めて本当に腕が良いお医者さんなのだと思う。
私もいい加減にあの痛い針を克服できるようにしなければ。
「フラフレさんたちの長旅も大変でしたでしょう。しかもわたくしのために……。ゆっくりと休んでください」
「ううん、私は元気だよ」
バルメルを捕らえた翌日、ミーリは元どおりの元気な姿になっていた。
私は若干の旅の疲れも残っているが、甘えてなんていられない。
実のところ、昨日は途中で疲れてしまって先に眠ってしまっていた。
気がついたらふっかふかの布団の中に入っていて、そばにはフォルスト様がいた。
フォルスト様が運んでくれたのだと知ると、私は再びユメの中へ。
休んでばかりだったから、今日はしっかりとミーリたちの役に立てるようにしたいのだ。
「ええと、昨日の話だとミーリが国王になるんだよね?」
「正直なところ、まだわかりませんわ」
「そうなの?」
「それだけお父様やおじ……ジャルパルのしてきた罪が重いのです。特にジャルパルが行方不明ともなれば、重大問題です。昨日は強がっていましたが、実際のところはわたくしも連帯責任を負って国外追放……廃棄処分ということも考えられます」
そんな……。
ミーリはなにも悪いことなんてしていないのに。
「現状ハーベスト王国の法律では、王族貴族もしくは民衆でも家族がなんらかの罪を犯した場合、連帯責任を負うようなことはありませんわ。全ては個人の責任となっています。おそらく、この法はお父様自身らがそうなる可能性を危惧していたからだと思います」
「ご、ごめん。言っていることが難しすぎてわからない……」
ミーリが真面目な表情で話してくれているのに、本当に申し訳ないと思う。
今後、国の法律もアクアに教わろうと思った。
「つまり、お父様が悪さをしたからと言って、子供のわたくしが罰を受けることはない、ということです。現状は」
「良かった……。じゃあミーリは無事なんだね」
「良くなんてありませんわ。法律上ではそうだとしても、どう考えたって民衆の方々は当然、貴族のみなさんだってわたくしのことを不信になっているに違いありません。それに、わたくし自身もお父様の罪を放置する気なんてありません。責任を背負って生きていくつもりですわ」
前々から思っていたけれど、ミーリは責任感が人一倍強いんだなと思っていた。
そうでなければ、ハーベスト王国からわざわざ聖女の勉強をしにリバーサイド王国に来ることもなかっただろう。
ずっと国のことを思って行動して、そしてそれなのに家族の責任まで全部被ろうとして……。
「ミーリは毎日祈って、この国を晴れさせていけば良いんじゃないかなぁ」
「そんなことは聖女として当然のことですわ」
「でも、もしも国外追放なんてなったら、ずっと雨が降ったまんまになっちゃうんじゃないかな?」
マリとモナカがいるから、そんなことにはならないとは思う。
だが、ミーリも一緒じゃないとと思って彼女らのことは口にしなかった。
「そうかもしれませんね。わたくしは国外追放になったとしても、国の外から祈り続けるつもりですわ」
「それだけハーベスト王国が大好きなんだね」
「勘違いしないでください。国を守るという、聖女であるわたくしたちにしかできないことを任されているのが嬉しいだけですわ」
ミーリが顔を赤らめながら、強めの口調で語っていた。
「せっかくフラフレさんやミラーシャさんに教わって強くなれましたのに、成果を出せないまま国外追放なんて絶対にイヤですわ」
ミーリはこれからが大変だと、王宮直属主治医は言っていたことを思い出す。
彼女はとても負けず嫌いだし、聖女に対してものすごいプライドを持っている。
だから休んでなんていられないのだと、身体が動いているのだろう。
「無理はしちゃダメだよ?」
「そうですわね。でも、今が一番頑張らなければならない時なのです。休んでなどいられませんわ」
困った。
ミーリのことを考えたら休んでほしいのはある。
しかし、ハーベスト王国の国民のことを考えると、早く天気が晴れてくれた方が良い。
私が祈るのはもう少し待つように言われているため、黙って見ていることしかできない。
今、私ができること。
少しの間はハーベスト王国に滞在することになっているし、ミーリが疲れて倒れないように見守るようにしよう。
どうかミーリが元気になりますように。
「ふふふ、そんなに心配なさらずとも平気ですわよ。わたくしはハーベスト王国の貴族聖女。フラフレさんと肩を並べられるくらいのことはやってやりますわ!」
ミーリが微笑みながら、窓越しに向かいカーテンを開ける。
窓が開き、降っている雨がパラパラと部屋にも入ってきてしまった。
「今から祈りますわ」
ミーリの強い意志を感じる。
身体は心配だけれど、ここは黙って見守ろう。
「何度も言うけど、無理はしないでね」
「ええ。祈るのはわたくしだけではありませんから」
「ん?」
窓越しに近づき外を眺めると、雨に打たれているマリとモナカの姿があった。
「フラフレさんは特等席ですからね。わたくしたちハーベスト王国の聖女たちの力、しっかりと見ていてくださいね」
「うん、わかった」
「では、いきますわよ」
「「はい」」
そういえば、太陽が姿を見せるための祈りって、見学するのは初めてのことだ。
三人がどのように祈るのだろうかと、私もワクワクしてきた。
『綺麗な花の力で雲を吹き飛ばすのです!』
ミーリが先行して祈り始めると、続けてマリとモナカも祈り始めた。
聖女特有の力がものすごく伝わってくる。
私もつい祈りをしようとしてしまいそうになるが、グッとこらえて我慢。
ミーリは息を切らしながら疲れた表情をしている。
「わたくしたちができることは、これが精一杯ですわ……」
「無理していたよね?」
「それくらいでないと、国民も納得しませんから」
ミーリは国民のことばかりだが、私はミーリが心配である。
ひとまずベッドに横になるよう促し、半ば無理やりでも横にさせた。
「休んでいる暇などありませんわ……」
「休むことも仕事なんだよー」
「まったくもう……リバーサイド王国の人たちはこれだから」
と言っているものの、ミーリはふうっとひと息つき、すぐに深い眠りについた。
よっぽど疲れていたのだろう。
「ミーリが元気になりますよーに」
私はそう言いながらミーリにふとんをかぶせた。私もちょっと疲れているため、ベッド横にある椅子に腰掛ける。
心地よさそうに寝ているミーリを見ながら、彼女が祈っていたことをふと思い出す。
頭の中で考えがまとまらないため、思っていることを声にした。
「祈り方って人それぞれなんだなぁ。私は『どうか、国と太陽が仲良くなってくれますように……』って祈っているけど、ミーリは花の力で雲を吹っ飛ばすのって言っていたなぁ」
マリとモナカの祈り方もどんなふうに言っているのか、あとで聞いてみよう。
二人も結構疲れているかもしれないし、彼女たちの元へと向かった。
三人が一生懸命祈ったんだし、ハーベスト王国もきっと晴れてくれることだろう。





