121話 フラフレはハーベスト王国の謁見に参加する(中編)
「あの男は地下牢にて処罰中だ。謁見できるわけがなかろう」
「それは妙ですな。実はジャルパル元国王がとある場所にいたという情報を仕入れておりまして。釈放されたのかと思っていましたが」
「ば……そんなばかなことがあるわけ……」
バルメル国王がどんどん威厳を失っているような雰囲気だ。
さらに周りにいる護衛警備たちも驚きを隠せていない。
フォルスト様の作戦のとおりになっている。
諜報員はバルメル国王の調査もしていた。
バルメル国王の性格や行動パターン、さらには部下からの指示なども全て。
その結果、ジャルパル元国王のとき以上に好かれておらず、信頼も薄いそう。
だから、ある程度バルメル国王に話を優位に立たせておいて余裕な状態にしておいて、一気に崩すと言っていた。
時間稼ぎも含めて。
あと、いまだにわからないのだけれど、私は謁見に立ち会うだけで良いと言ってくれている。
今のところなにもしていないが、どういうことなのだろう。
バルメル国王の対策は容易だと言っていたから、この謁見もおそらく……。
「国へ帰るが良い。遊びにつき合っている暇はないのだ。そこの我が国にとってゴミ同然の廃棄品二名も連れていってしまえ」
「彼女らは貴族の子でしょう? それに聖女。廃棄と言うのは侮辱が過ぎるかと思いますが?」
「先ほども言ったが、役立たずの聖女などいらぬ。当然、そいつら廃棄品の親も国外追放処分に決まっておろう。ろくに国の役にも立たず、給金だけ与えているような者など不要」
バルメル国王に言われたい放題で、さすがにマリとモナカも黙ってはいられなかったのかもしれない。
今まで見せたことがないような恐い表情になっていた。
「……両親を悪く言わないでください」
「わたくしに落ち度があるのです。聖女としての任務を全うできなかったのですから」
マリとモナカが必死に訴えるも、バルメルは見下すことしかしない。
もうこの人イヤ。
「撤回はせぬ。私がわざわざ貴殿と話の場を作ったのは、ハーベスト王国に二度と関わるなという意味も含まれておる。我が国は私が作っていく。二度と来るでない」
はぁっとため息をつくフォルスト様。
「そろそろ頃合いか。仕方がありませんな」
扉が勢いよく開く。
入ってきたのはウェルマーたち。それから……。
バルメル国王がひどく慌てた様子だ。
「な!? なぜ貴様が……!?」
ウェルマーと一緒にいるのは綺麗な女性。女性は重そうな巾着袋を持っている。あれ……この人どこかで見たことがあるような……。
「大人のお店『極みのカイラクエスト』オーナーです。ジャルパル様からお預かりしていたお金はお返ししますね」
「く……。なんのことだ?」
「口止め料と言っていましたが、そんなもの受け取るわけにはいきませんので。利用料のみで結構です」
「おのれ……裏切るか……処刑は免れぬぞ!」
バルメル国王が私のところにかろうじて聞こえるか聞こえないかくらいの小声でボソッと呟いた。
どうやらよっぽど立場が危ういようだ。
すでに冷や汗が滝のように流れている。
「者共、その者らを捕らえよ!」
「おっと、彼女は我が国の王宮直属部隊ですが?」
「謁見に呼んでなとおらぬ」
しかし一部の警備兵たちがウェルマーたちに向かい捕らえようとしたが、ウェルマーは女性を担いだうえでなんなくかわした。
ウェルマーが、ものすごい動きだ……。いっぽう、警備兵たちの動きが鈍足な気がした。
それにしても、ほとんどの警備兵はバルメル国王の命令を聞かなかったなぁ。
むしろ、その場から動かなかった警備兵たちは、なにかニヤけているような気がする。
「使えぬ兵どもめ……。なぜ動かぬ! 全員でかかればあのような者くらい捕らえられよう」
バルメル国王が必死になるも、ほとんどの警備兵は微動だにしない。
むしろこの状況を楽しんでいるかのようだ。
これにはフォルスト様もバルメル国王に対して呆れているようだった。
「バルメル王よ、そなたはジャルパル元国王を釈放し、罪もないミーリ殿を地下牢へ幽閉したのだろう?」
「違う。断じて違う!」
「嘘ですよ。陛下はジャルパル様と二人一緒に何度もいたのですから!」
女性が自信を持ってそう言った。
これにはバルメル国王もどうしようもできなかったよう。
しかし、まだ言い訳が続く。
「兄上が勝手に脱獄しただけだ。私は脅されていたに過ぎない」
「だがバルメル王のもとでかくまい民衆はおろか貴族にも兵にも黙秘でいた。間違っているか?」
フォルスト様がいつのまにか敬語を使っていない。
ジャルパル相手の時は敬語だったのに、だ。
もはや国王というよりも一人の囚人相手に対して話しているかのようだった。
「断じて違う。私は兄上をかくまってなどおらん!」
「嘘です」
綺麗な女性が堂々とバルメル国王に対してそういう。
「ジャルパル様はお店の常連であり、脱獄したことも得意げに話しておられました」
「それは……よ、よせ!」
「口止め料として多額の金貨を預けてきましたが、私たち娼館の人間にもプライドというものがございます。犯罪者の肩身を持つ気などございません。ゆえに預かっていた口止め料の金貨は全てお返しいたします」
バルメル国王が黙秘を貫いている。
「裏切れば家族もろとも処刑すると脅されていました。しかしリバーサイド王国の方々に救われました。だからこそ真実を語れる状況になったのです」
「ぐ……」
「つい先日もジャルパル様の命令で王宮にも出向き、国王陛下の個室でも乱暴なことをされました。お隣の部屋には陛下もおられたのに見て見ぬふり。また、隣国の聖女様をこの国に拉致し無理やり祈らせるような計画もジャルパル様は語ってくださいました。連日の雨もそれまでの辛抱だ、と得意げに語っていました」
「…………」
それって私のこと!?
ジャルパルは私を捕らえようとしていたってこと!?
驚きの連続でまた恐くなってしまった。
だがアクアが私の手をギュッと握りしめてくれ、すごく気持ちが楽になった。
フォルスト様がかつてないほどの怒りに満ちている。
滅多に怒った表情をしないのに。