120話 フラフレはハーベスト王国の謁見に参加する(前編)
「お初にお目にかかります。リバーサイド王国国王、フォルスト=リバーサイドと申します。こちらは私の側近のフラフレ=リバーサイド、そして宰相としての立ち回りを担当しているアクアでございます」
私の名前に国の名前が追加されていた。
フォルスト様は、私がリバーサイドの人間になっていることを主張しているんだと思う。
ちょっと嬉しいなと思いつつ、ニヤニヤしないように表情は真剣そのものを維持した。
「ん。お初にお目にかかる。バルメル=ハーベストだ。早速だが、ひとつ問いたい。そなたらと一緒にいるのは我が国の貴族令嬢、マリとモナカであろう。なぜリバーサイド王国の者たちと一緒に?」
あ、この国王はやっぱり聖女って言わないんだ。
しかも、顔には表さないようにしているけれど、とっても恨み節があるふうに聞こえた。
「彼女らは大変意欲的で、聖女としての力を上昇させるために、我が国に足を運んでいました」
「ほ、ほう……」
「彼女らの安全面も考慮し同行していただきました」
バルメル国王がとても気まずい雰囲気を出している。
「彼女らの一生懸命さに心打たれましたよ」
「そ、そうか……。だが、一生懸命だけであって実際のところは晴れさせるほどの力が身についたのかどうか」
「「お任せください!」」
「なにを根拠に……。今も雨が降り続いておるではないか」
バルメル国王が見下すように言っているが、マリもモナカも一歩も引かなかった。
「しっかりと明確に示すためにまだ祈っていませんわ」
「……これから証明します」
「ぐ……だが……」
「そのためにも、ミーリ様のお力もお借りしたいのですわ」
「……ミーリ様との面会も許可願います」
もちろん私たちは全員、ミーリが地下牢にいることなんて知らない程で喋っている。
みんな演技が上手いんだよなぁ……。
私はボロを出さないように下を向いてお辞儀をしたままだ。
「聖女フラフレよ!」
「ふぁいっ!?」
突然バルメル国王が私の名前を呼ぶものだから、驚いてしまい元気よく返事してしまった。
周りに起立の姿勢でいるハーベスト王国の護衛たちも驚かせてしまうほどに。
すぐ隣にいるアクアが超小声でそっと呟く。
「落ち着いてください、大丈夫ですから」
とっても緊張してきた。
なにを言われるのか内心ヒヤヒヤしている。
「前国王ジャルパルがなにも知らずにそなたを廃棄処分したことに関しては心より詫びる」
まさかの頭を下げてきた。
これは許しちゃって良いのかどうか迷う。
こっそりとアクアの表情を伺ったが、『決して惑わされないように』と言った雰囲気だ。
「は、はぁ、地下牢生活は毎日が大変でしたよ」
「うむうむ、わかる、わかるとも。だが、そのうえで頼みたいこともある。話を聞いてくれたまえ」
全く謝罪されているように聞こえなくなってしまった。
アクアも歯を噛みしめながら我慢しているし、アクアの予想は間違っていない。
もう気にしないでくださいねーと言わなくて良かったぁ。
「どうか早急に祈って晴れさせてくれないか?」
「え? でも、マリとモナカが祈ると……」
「いやいや、フラフレが早急に祈ってくれればそれで解決であろう?」
なにを言っているのだこの国王はといった視線がフォルスト様たちから向けられていた。
マリとモナカを差し置いてこんなことを大事な謁見で言うだなんて……。
「勘違いはしないでいただきたい。今は本当に一秒でも早く晴れてもらわないと困る。そのためにはフラフレの力が必要だろう」
「えぇと……、お断りします」
「いくら出せば祈ってくれるのだ? 金なら出そう」
どうしてマリとモナカに任せようとしないのだろうか。あんなに一生懸命頑張って訓練していたのに。
それよりも、バルメル国王が『フラフレが祈るのが当たり前だ早く祈れ』といったような雰囲気で頼んでくるのがとても恐い。
金貨は綺麗だからとっても好きだけれど、嫌な思いをしてまで欲しいわけではない。
「失礼、バルメル国王よ。フラフレはすでに我が国の大事な人間です。それに、マリ殿もモナカ殿もこちらのフラフレが認めるほど立派な聖女です。そして、あなたの娘ミーリ殿も……」
「ミーリは当然だ。我が国としては今後、一人でも晴れさせるよう指示しているのだ」
「ならば彼女らは……」
「全くもって非力な聖女。我が国のルールに則り、予定では廃棄処分を検討しておる。そこの役立たず聖女ならば、欲しければそなたらの国にやろう」
まるで道具としてしか見ていないバルメル国王。
悔しそうにしながらモナカは静かに涙を溢していた。
ジャルパルも酷かったが、別の意味でこの男も酷いことが良くわかった。
そう思っているのはきっとフォルスト様もアクアも一緒だろう。
「彼女らに対しあまりにも酷すぎるのでは?」
「若輩の国王にはわからぬだろうよ。情で動くようでは国はまとまらん。兄上は女にだけは甘かったが、私はそうはいかぬ。必要がなければ容赦なく切り捨て、国を発展させていく。ゆえにそなたらリバーサイド王国とも特に関わろうとは考えておらぬ」
きっぱりと言い切ってしまった。
まるで当たり前のように。
ゴミを見下すかのように。
これってジャルパルが私にゴミ扱いをしてきたときと雰囲気も似ている。
顔に出さないようにしていたが、私もムッとしてしまった。
しかし、フォルスト様は冷静だ。
「おっしゃる通り、私には割り切るようなことはできず、情で動きます。仲間に助けられてばかりでございます」
「落ち度を自ら認めるうえでリバーサイド王国の国王を名乗るのか。いかに情けない国なのかが容易に想像がつく」
「はい。私だけではとてもではありませんが国を作っていくことなどできなかったでしょう」
急にどうしてしまったのだろう。
フォルスト様がおもいっきりバルメル国王の言いなりになっている……。
「できなかった? 今はできているとでも?」
「はい。私の周りには大変心強い仲間がいますから」
「仲良しだけで国が作れるわけがなかろう。本当に情けない王だよ、そなたは」
さすがに黙っていられないしもう意地悪言うのを止めてくださいって思っていたけれど、アクアがそっと止めてきた。
なんだか絶対に大丈夫だという視線を向けてくれている。
う、うん……。わかった。もう少し大人しくしているよとアクアに心で伝えておいた。
「威厳もなければ格上には逆らえぬ情けない国王だ。聖女フラフレに問う。このような王につかず、我が国に戻ってきたらどうだ? 今なら過去の謝罪も含め、歓迎するが」
「イヤです」
即答。
そんなこと言うまでもないよ。
真っ先にフォルスト様が私の正面に移動して、バルメル国王との間に入ってくれた。
「私にとってフラフレはかけがえのない存在。いかなる理由であろうと渡すことはありません、絶対に!」
「元々我が国の人間だったのだ。盗人のような行為をして渡さないとは図々しいと思うが」
「いえ、貴国においてフラフレを廃棄処分し国外追放処分し住む権利をも強制的に放棄した。さらに荒野に捨てるなど事実上処刑でしょう。にも関わらず今さら盗人呼ばわりとはいかがなものかと」
ジャルパル元国王はどのような話であっても理屈で冷静に喋っていてある意味国王としては冷静だった気がする。けれど、バルメル国王は感情的になっていて、頭の上から湯気が沸騰しそうな雰囲気すらある。
ものすごい怒っているのが伝わってきているし、なんだか恐い。
「バルメル王よ。こちらの要望をまだ言っていません。誠に勝手ながら、本日は我が国にとっても特に友好を築きたい相手、ミーリ殿と対談を希望したいのです」
「国王は私だが」
「ほう。では面識のあるジャルパル元国王と謁見を求めてはいけませんかな?」
「な……!?」
バルメル国王の表情がわかりやすい。
都合の悪いことになるとすぐに顔に出るタイプのようだ。