117話【ハーベスト王国Side】ミーリの反抗心
ミーリが地下牢に閉じ込められて数日。
ミーリの前にバルメルが姿を現した。
「気分はどうだ?」
「……最悪ですわ。わたくしを幽閉して、いったいなにが目的ですか?」
「そう怒るでない。愛する子だからこそこうするしか方法しかないのだよ」
「言っている意味がわかりません」
すでにミーリには怒る気力すら残っていなかった。
リバーサイド王国で得た聖なる力も、精神状態が悪くなってしまった影響で無力に近しい状態にすらなっている。
「まず、聖女としての立場を踏まえての罰だ。これに関してはミーリに失望したよ」
「はぁっ!?」
「聖女だからと言って、自分の趣味を堪能するための遠乗りなど許されるべきことではない。将来的に私の後を継ぎ女王となるのだからな」
今更聖女の力はどうやったら強化されるのかを説明する気力すら残っていない。最後に会った日にしっかりと説明しようとしていたのに聞く耳持たないバルメルだったため、言っても無駄だと諦めていた。
「趣味は認めますわよ。ですが――」
「言い訳無用。雨しか降らぬ状況で遊んでいる聖女など、民間人とて認めるわけがない。こんなことばかりしておるから私の評判もすでにガタ落ちなのだよ。どうしてくれる?」
「話を聞こうとしなかったからですわ」
ミーリはそっぽを向いてこれ以上話すことなどないとアピールしていた。
しかし、バルメルは怒ったミーリの姿も可愛いと思っていて、彼女の心境など知らずに笑顔で接する。
「そう反抗するでない。やはり私はミーリが可愛くて仕方がないと思っているよ」
「わたくしはお父様のことを嫌いになりましたわ」
「そう言うな。本来ならば聖女として全く力を使えないミーリは永久的に地下牢生活もしくは廃棄処分が検討されてしまう。だが、そうはさせない!」
「わたくしは聖女としての力を得てきたと言ったでしょう」
とはいえ地下牢生活を強制された今のミーリには、祈るほどの力がないことも自覚していた。
証明しろと言われるものならばどうすることもできないのも事実。
地下牢から出してもらえれば再び聖なる力も回復できるとは思っていたのだが、そんなことを言っても無駄だということはわかっていた。そのため、これ以上の反論はしなかった。
「ミーリがダメだった場合のことを考え、念のためにミーリが祈らずともこの国を晴れさせる策を準備している。それが届くまでの辛抱だよ」
ミーリには言っている意味がわからなく、バルメル側に顔を向けてしまった。
「いったいどういうことですの?」
「(念のために聖女フラフレを強制連行する計画がまもなく完了する旨は黙っておくか……)詳しくは言えぬが、この国が晴れたら、今後はミーリは祈っているフリをして表向きには国に貢献している聖女と名乗れば良い。それだけで民からの信頼も取り戻せる」
バルメルは自身とミーリに手柄を作り、いつまでも独裁国家になれるよう目指している。
一方、ミーリは純粋に聖なる力に自信を取り戻していたからこそ本気で国を守りたいと思っている。
当然ミーリにはバルメルの提案を受け入れるわけがなく、苛立ちと不機嫌な表情を向けた。
「そんなこと、断固としてお断りしますわ。わたくしの聖女としてのプライドが許しません!」
「甘ったれたことを言うでない。これは私の権威にもかかっているのだから協力しろ」
「いやですわ! そもそも、わたくしを殴り地下牢に閉じ込めたようなお父様……いえ、バルメル陛下に対して忠誠など誓えません!」
すでにミーリはバルメルのことを父親とすら思いたくない心境だった。
さすがに察したバルメルも感情を落ち着かせ、一度は頭を下げる。
「ミーリよ……。父親として当然のことをしているのだ。わかってくれ。ミーリの将来もしっかりと考えているのだから」
「本気で考えてくださっているのでしたら、こんな場所に幽閉などしませんわ」
「もう少しの辛抱だ。そうすればミーリが祈らずともこの国は晴れるのだから」
「それも納得できません! ともかく、地下牢から出させてください。無罪の人間を地下牢に入れるなど、あってはならないことでしょう!?」
「いや、残念ながら本来は有罪だ。国を守る大事な任務を放棄し遊んでいたのだからな……」
何度言っても同じことの繰り返し。
ミーリにはどうすることもできなかった。
だが、それでもダメ元でミーリは口を開く。
「お父様、わたくしの話をしっかりと聞いてください。聖女の力を強化する方法がわかり、わたくしはそのための訓練をしていたのですわ。今は地下牢にいたために力を発揮できませんが、地上に出て再び同じように鍛錬をすればきっと晴れさせることが可能になります!」
今回バルメルは、ミーリの話をしっかりと聞いた。
しかし、すでにフラフレを捕らえハーベスト王国に連れてくる頃だと確信している手前、今ミーリを活躍させるわけにはいかない。
「ミーリよ、悔しいかもしれないが以前兄上が廃棄処分した聖女フラフレは相当な聖女だった。あの者にも勝てるほどの力を発揮できるのか?」
「それは……」
ミーリはフラフレの凄まじい聖なる力を体感したからこそ、彼女には劣ると自覚している。
しかし今の目標はフラフレのように国を晴れさせ自らの手で民を喜ばせること。
力の大小に関してはさほど気にしていなかった。もちろん負けず嫌いは健在のため、勝てるならば勝ちたいという気持ちはあるのだが。
フラフレには勝てないと表情に出てしまうミーリ。
それを見たバルメルはニヤリと微笑む。
「ほらみなさい。私の言う通りにもう数日間は地下牢で大人しくしているのだ」
「もう……勘弁してください」
「フラフレの時とは違い、しっかりと湯あみ用の桶も食事も与えている。決して囚人と同じ扱いではないことを理解し許しておくれ」
そう言って地下牢をあとにしたバルメル。
ミーリは大きくため息をついた。
「お父様は晴れさせると言っていましたわね……。マリとモナカに強要? いえ、それは今の彼女たちでは無理させても重荷なはず。いったいどうやって……?」
ミーリには、まさかフラフレを誘拐して強制連行してくるような発想にはならなかったのだった。