116話 フラフレは再びハーベスト王国へ行くことを決意する
今回は謁見ではないため、フォルスト様が玉座の椅子に座り、私、アクア、マリ、モナカ、ウェルマーがその正面に起立の姿勢でいる。
「――という報告を受けた」
フォルスト様の予感は当たっていた……。
ミーリが地下牢に閉じ込められていることを知る。
だが、これだけ頼れる人たちがいるのだからきっと大丈夫だ! 絶対に!
さらに、諜報員からの知らせはそれだけではない。
「バルメル国王の国政は、とても我が国と友好を築けるようなものではない。むしろリバーサイド王国に対し宣戦布告のようなものばかりだ」
ジャルパルのときと根本的な政策が変わっていないらしい。それどころか、むしろリバーサイド王国側にとって不利なものばかりだという。
野菜不足だったとき、法外な金額で買わされていた。それは今は必要なくなった代わりに、他国へ売るための物品は全てにおいて本来の倍以上の金額で輸出するのだとか。
肝心のバルメル国王も容赦のない政策ばかり強引に決めていて、必要以上な税を取り立てているらしい。最初は新国王になって期待されていたものの、街の人たちはすでに落胆しているようだ。
「早いところ国王が代わって欲しいというのが民間人の願いらしい。雨ばかり降るようになり住みづらく、金さえあれば別の国へ移民したいといった声も出ているそうだ」
「……間違いないです」
「わたくしたちもバルメル陛下に対しても不審な点は多かったですわ。でも、ミーリ様の立場上なにも言えませんわ……」
なぜかニヤリと笑みを浮かべるフォルスト様。
「ならばなんの躊躇もいらないというわけか。ミーリ殿を救出する作戦は行う。たとえ国同士で争うことになっても……だ。同時にバルメル国王の悪行及びジャルパルの脱獄に関しての証拠も手に入れているから、こちらが動いたとしても、そもそもの争いにすらならないだろうがな」
「ミーリも処罰ということになってしまうのですか?」
「本来王家の人間が裁きを受けるような事態になった場合、家族揃って罰を受けることになるのは当然のことだろう……。だが、あの国は例外だ。ゆえにジャルパルが地下牢に入った時も弟のバルメル、そしてミーリ殿に責任追及されなかっただろう」
ホッとひと安心。
しかし、そうは言っても彼女の親とその兄が同時に悪事をバラされるわけだ。さすがに非難がミーリに飛び交うんじゃないかと思ってしまう。
兎にも角にも、まずはミーリを救出することが最優先事項。
どうやって助けるのかが気になっている。
「ひとまず、ミーリ殿を地下牢から救出させることを第一に考えよう」
「よろしいのですか陛下?」
ウェルマーが心配そうに尋ねる。
「他国への関与、今回の場合は侵略と捉えてもおかしくはありません」
「あぁ……重々承知している」
「でしたらなぜこのような判断を……?」
ウェルマーは国王としての立場を考えて言っているようだ。
しかしフォルスト様は全く動じることもなかった。
「ウェルマーの疑問は当然のこと。だが、友を救うためだ」
「え?」
「ルールや法律は守ることは当然だ。だが、ときにそのルールや縛りのせいで命を落としたり多大な損害を招いたりする場合もある。ミーリ殿は守るべきこの国にとっても大事な友なのだよ。ハーベスト王国のルールに従いなにもしなければ、ミーリ殿の運命がこの先どうなるか予測がつかない……」
フォルスト様が立ち上がり、私のそばに来る。
そして私の肩の上に手をそっと添えた。
「フラフレにとってもミーリ殿は特に大事な存在だ。国王としては失格かもしれないが、それでも私は友を助けたい」
「フォルスト様……」
そこまでの覚悟で私の大事な親友を助けようとしてくれていることが嬉しかった。
ため息をつくウェルマー。
「本当にリバーサイド王国は不思議な国ですね。敵であったはずの私らを受け入れてくれ、国のためでなく個人の主観で行動をしようとする判断力……」
「それが現国王陛下、フォルスト=リバーサイドなのですよ」
アクアがふふっと笑みを浮かべながらそう言う。
「元々この国の人間でなかった彼が国王になるまでの経緯も、今回のような判断と行動で掴んでいます。ゆえに私は今回の陛下の判断も賛同し協力します」
「いつもすまないなアクア」
「いえ。私も陛下には救われている身ですから。どのような判断を下そうともそれに従うまでです」
「わ、私も! ミーリは絶対に助けたいしまた会いたいです。だから、ウェルマーも協力して欲しい……」
「……承知しました」
ウェルマーがフォルスト様に向かって頭を深く下げた。
「確かに言われてみればそうですね。国王陛下は時に大胆かつ規格外な判断をしてきたからこそ、この国は救われていたのでしたね。そんな国王陛下だからこそ私も忠誠を誓ったのですから。無礼な発言をお許しください」
「気にすることはない。ましてや他国に関与するとなっては疑問になって当然のことだ。それに……フラフレを助けたときの予感と似ているのだ。今回は少々強引でもミーリ殿を救いにいくべきだと。我が国だけでなく、ハーベスト王国を救うためにもそんな予感がする」
みんな納得したようで、地下牢に閉じ込められていミーリを助けに行く方向で話がまとまった。
ところで、私も一緒に助けに行っても良いのだろうか。
ハーベスト王国へ再び行くこと自体に抵抗があるし恐い。
もしも捕まってしまい、昔のような辛い日々に戻ってしまったらと思うと身体が震えてしまうほどだ。
でも、ミーリは大事な親友。
彼女が辛い状態になっているのに放っておくのは嫌だった。
なにか役に立てることがあるのならば、私も行きたい。
そう思っても、フォルスト様は許してくれなさそうな気がする……。
「フラフレよ、一緒に行くかは任せる」
「え!? 行っても良いのですか?」
フォルスト様が予想外なことを言うものだから、質問に対して質問をしてしまった。
「ミーリ殿を助けたい気持ちは誰よりもあるだろう。だが、ハーベスト王国はフラフレにとっては苦い記憶がある場所だ」
私が思っていたことをそのまま再現してくれたかのようだ……。
「行きます。ミーリは絶対に助けたい……!」
私自らミーリを助けるような自信はないけれど、気持ちだけがそう訴えている。
「わかった。フラフレの護衛はしっかりとつけよう。むろん、私がフラフレのことをしっかりと守るつもりではいるが」
「ふぁっ……」
「言っただろう。なにがあってもフラフレのことは守ると」
こんな大事な状況なのに、私はまたもやドキドキしてしまう。
アクアがこっそりと笑みを浮かべていたのをしっかりと確認した。
浮かれている場合でもない。
ハーベスト王国に行くことなんて二度とないと思っていた。
絶対に捕まらないように万全の準備をしておこう……。