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114話 フラフレは謎の病にかかる

「……全て私の責任。申しわけない……」

「私もしっかりと長湯の前に声をかけるべきでした。大変申しわけございません」


 モナカといっぱい喋っていたけれど、普段も長湯だし、今回も普段とそこまで入浴していた時間は変わらなかったと思う。


 だが私はのぼせた……らしい。

 ちょっと火照っていたから外に中庭に出て身体を冷やしていたのがいけなかったのかな。

 風邪をひいてしまったようだ。

 今までも何度かのぼせては身体を冷やすことをしたことがある。こちらも普段の入浴とそう変わらない。

 だが、なぜか今回は体調を一気に崩してしまった。


 二人が申しわけなさそうに謝ってきた。


「もにゃかもアクアも、なにもわりゅくにゃいにょ」


 滑舌がめちゃくちゃになっている。

 このままだと私は地獄を味わうことになるから、元気なフリをしたい。

 しかし、そんな誤魔化しがアクアに通じるわけがない。


「フラフレ様は、今日はおとなしく休んでいましょう」

「で、でみょ、いにょらないと……」

「……私とマリ様がフラフレ様の代わりに祈る。今ならできそうな気がする」

「……んが?」


 体調不良でまた幻覚が見えているのだろうか。

 モナカから、訓練後のミーリにも劣らないような聖なる力が流れているような感じがする。

 私は真逆で、聖なる力がうまく発揮できないような感覚に襲われていた。


 うーん……なんなんだろうこの感じ。

 まるで、ハーベスト王国から追放されたころの身体の感覚に近いような気が……。


「ともかく、フラフレ様はまず王宮直属主治医の診察を受けてください。すでにお呼びしていますので間もなく来るかと」

「ひぇぇぇぇぇえええええっ!!!!」


 またプスっと針を刺されるかと思うと、今すぐにでもここから脱出したい気持ちがある。

 しかし、身体が思うように動かない。


 私の身体、動け動け動け動け……!

 ――動かないよぉ〜〜!

 これは重症だ……。


 王宮直属主治医は悪意があって私にプスプス刺してきているわけではないのはわかっている。

 それを踏まえた上で痛いものは痛いんだ。

 だが私も成長しなければいけない。

 ここは素直に従うしか……。


 で、でもあの針は恐い!!


「お待たせしました。フラフレ様のご容態は……?」


 来ちゃった。

 いつもの長い白衣にメガネ。世の女性が見たら、ほぼ全員がカッコ良いと言うほどの美容顔をお持ちなのだろう。

 けれど、私が彼を見ると毎回恐怖が勝ってしまう。

 今回こそ克服……と思ったのだが、やっぱり震えてしまった。


「ん……?」


 王宮直属主治医が私の顔を見て違和感を覚えているようだった。

 普段だったら真っ先に針を向けてくるのに、今回はそれがない。


「アクア様。大変申しわけありませんが、フラフレ様の身体に触れ、体温を確認していただけますか?」

「は、はい。ではフラフレ様、失礼しますね」


 王宮直属主治医は、緊急時でなければむやみに身体に触れてくることがない。

 身体の検査をしてくれているわけだし、私は気にしていないことだけれどそれではダメだそうだ。


 アクアのおでこが私のおでこと触れる。


「んんん〜♪」


 こんな状況なのに、とっても癒されている感がある。アクアに触れているとなんだか落ち着く。

 そのあとアクアの手が私の首元に触れて体温を確かめてもらっているのだが、アクアが首を傾げた。


「顔は真っ赤ですが平熱のようですね。以前フラフレ様が風邪をひいた際は明らかに熱かったのですが、今回は普段と変わらないかと」

「風邪だからといって毎回発熱するわけではありませんからね。念のために他の検査もしましょう。どのような感覚ですか?」

「えぇと……、身体が怠いです」

「寒気は?」

「ないです」

「咳も出ていないし顔色も悪くはない」


 いつのまにか滑舌は元に戻っていた。

 身体もほんの少し動く。


「なんとなく、全身の力が抜けてしまったような感覚です」

「うぅむ……」


 あの王宮直属主治医が悩んでいる。

 もしかして、私、もう治らないような重大な病気になっちゃったとか!?

 こんなことになってしまうなら、もう二度と長湯して水鉄砲ごっこすることなんてしませんっ!

 だから……せめて治ってほしい……。


「……ひとつよろしいですか?」


 モナカが右手を上げ、王宮直属主治医に尋ねた。


「……聖女様は無理に祈りすぎたのでは?」

「というと?」

「……私とマリ様、ジャルパル元国王に強引に祈れと命じられたとき、無理して祈ったことがあります。力の使いすぎで今の聖女様みたいな感じになったことが何度も。それに、昨日と比べてフラフレ様から聖なる力があまり感じられない。昨日は見ただけでわかるくらいのものすごい力を感じたのに」


 王宮直属主治医が非常に興味深そうにモナカの説明を聞いていた。

 私はというと、心当たりがなかった。

 祈ってはいたけれど、それは普段やっていたことと変わらない。


 マリとモナカが見ていたからといって見栄をはったり普段より張り切ったりもしていない。

 違うことといえば、ミーリのことが心配で集中できていなかったかも。


「聖なる力が関係しているとなれば、私の診察では期待に添えることができません……」

「私、治らないのかなぁ」

「……ちょっと休めば治る。だから、今日は祈らないで休息したほうが良い」

「うん、わかった……」


 私、どうしちゃったのかなぁ。

 ひとまず、いつものプスっとされなくて良かったけれど……。それよりもみんなに心配かけちゃって申しわけなく思う。


「どちらにしても、身体はストレスを感じているように見えますね」

「ん……?」


 王宮直属主治医がなにやら不穏なことを言い始めた気がする。

 これはもしや……。


「栄養補給のためにも射っておきましょう」

「げげげげげ……」


 王宮直属主治医のその穏やかな表情やめてほしい!

 だんだんニコニコとした顔になって私のそばに近づいてきた。恒例の針を持ちながら……。

 やめてやめて!!

 すぐに逃げ出したいけれど、身体が言うことを聞いてくれない。


 というのも、先手を打たれてアクアに押さえつけられてしまっていたのだ。


「……なにこれ」

「モナカさんも協力してください。フラフレ様はこのときだけは暴走するのです」

「……わかった。聖女様、覚悟」


「ひ、ひょぇええええっ!!!!」

「痛くないですからね」

「絶対に嘘ですっ!」

「フラフレ様の好きな食べ物は?」


 ニコニコしながら王宮直属主治医が尋ねてきた。


「ん、んーと、おいしいもの……きゃああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

「はい、お疲れ様でした。できる限りのことはしたので、様子をみていきましょう」


 いつもと同じく、プスっとされて痛かった。

 でも、これで元気になれるはず。

 そう私は思っていたのだった。

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追放聖女のどろんこ農園生活 ~いつのまにか隣国を救ってしまいました~
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