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112話 フラフレはほんのちょっとだけ国のことを考えて動く

 どろんこ遊びの正装=作業服に着替えをするために、アクアと二人で一度部屋に戻った。

 さっきからアクアがニコニコとしているため、とてもご機嫌なようだ。


「将来の王妃として、大変的確な判断ができるようになりましたね」

「へ?」

「リバーサイド王国に来たころのフラフレ様でしたら、先ほどのように落ち着いてお菓子を嗜むことができなかったでしょう」


 そうだったかもしれない。

 ミーリのことをなんとかしなきゃと、あれこれ考えて他のことが疎かになっていたと思う。

 とてもじゃないが、どろんこ遊びはできなかった。


「フォルスト様とアクアがいっぱい教えてくれたからだよ。本当はミーリのことがすごく心配で仕方ないんだけどね」

「そうですね。私も心配ですよ」

「でも、私があーだこーだ考えていても良い答えは出ないと思う。フォルスト様が一生懸命考えられるように、私はいつもどおりにしようって思ったんだ。でも……、良いのかなぁ? 薄情な気もするんだよ……」


 ミーリのことはフォルスト様たちに全任せということになってしまう。

 それにどろんこ遊びをするということは、私は趣味に没頭となるわけだ。

 こんな時に遊んでいて良いのだろうかと思うと、申しわけないような気持ちもある。


 しかし、アクアは私の両肩に手を添えながらニコリと微笑んだ。


「それだけの判断ができれば、陛下も安心してフラフレ様に国を任せつつ、今後の対応と対策に集中することができますよ」

「良かった……」

「しかし、これでは私はお役御免ですかね。この調子ならば、私が教えることなどなさそうですもの」


 アクアがちょっぴり寂しそうにしていた。

 慌ててそんなことはないと騒いだ。


「アクアとずっと一緒にいたいよぉ……」

「あ、そういうことではなくてですね――」

「今までもいっぱい教えてくれたから、少しだけ考えられるようになったし、これからもアクアに教えてもらいたいこと山ほどあるから」


「ふふ……、もちろん一緒にいますよ」


 ほんの少しだけ無言ののち、アクアが囁いてくれた。


 ビックリしたよ。

 まるでアクアがどっかへ行ってしまいそうなことを言うものだから……。


 恐くなってしまい、ギュッとアクアのことを抱きしめた。


「まだまだいっぱい教えてね……」


 アクアも私の頭をよしよしと撫でてくれた。

「大丈夫ですよ。ですから、……誰一人不幸にならないように動き、絶対にミーリさんを救出しましょうね」


 やっぱりアクアもミーリのことを心の底では心配しているようだった。

 アクアが私が成長したようなことを言ってくれたから、これからはアクアに対して私が成長した姿を見せていきたい。


 ♢


 有言実行。

 どろんこ遊びで私が成長した姿を見せた。

 ミミズさんを発見して、素早く捕まえる技を身につけたのだ。


「どうかなぁ?」


 見学している三人に見せたのだが……。


「きゃーーーーーーーー!!!!」

「はぁ……。フラフレ様は……」

「……捕まえ方、素早い」


 日傘をさしていたマリは、ミミズさんを見て逃げ出してしまい、アクアは呆れ、モナカだけが興味深そうにしていた。

 マリが遠くから泣き叫んでいる……。


「これやらないと聖女が成り立たないのなら、無理無理! 絶対に無理ですわー! わたくし、聖女辞めますうぅぅ……!」

「だ、大丈夫だよ。園芸でも良いんだって」

「それも虫が出てきてしまいますわぁー! わたくし、虫だけはほんっとうにダメなのですわ!」

「うーん、ミミズさんも可愛いんだけどなぁ……」


 にょきにょきと手の上で歩いているミミズさんを見ながら、どうしたものかと悩んだ。

 ミラーシャさんから教わったことを思い出す。

 確か、自然に関することで好きなことに夢中になってと言われた覚えがある。


「マリの好きなことってどんなことかなぁ?」

「そ……そうですわね……。わたくし、フラフレ様がハーベスト王国にいたころ、つまりは今のように天候が良かったころは日光浴に憧れていましたわ」

「憧れていた?」

「はい。両親が大変厳しいお方ですの。伯爵令嬢として日向ぼっこなどしていては日焼けをしてしまい、婚約者に煙たがられるなどと言われていました。ですから常に日傘で外出、今も傘をさしていますの。日にあたることを許されませんでしたので」


 大変なんだなぁ。

 言われてみて思ったけれど、私はほぼ毎日どろんこあそびをして日に当たっている。でも肌が焼けて色が変わるなんてことはなかった。


「そう言われてみますと、フラフレ様はあれだけ外で遊んでいても、全く肌色に変化がありませんね」


 アクアが羨ましそうに私を見てきた。


「もしかして、聖女って肌色が変わらないとか?」

「そうだと良いですね」


 そんなわけないだろと思いながら、はははと笑った。


 その昔、まだ私が孤児院にいたころ。


 外が猛烈に暑い時期があった。

 私は直射日光にあてられ続けていた花が苦しそうだと思ったことがあった。

 小さな私の身体を盾にして、花に日陰を何時間か作っていた記憶がある。

 あのとき、真っ黒こげの身体になるぞと院長に注意されたことがあったっけ。

 全然平気だったから、それ以来外で遊ぶ機会が増えたんだった。

 まぁそのすぐあとに地下牢生活が始まっちゃったんだけど。


 そんなことを思い出したら、もしかしたら本当に日光当たっても平気なのかもしれない。


「こっちにいる間、日向ぼっこしてみたらどうかなぁ?」

「日光浴……」

「……聖女様のお告げ。やってみたら良いと思います」


 モナカがマリの傘をひょいと持ち、マリの身体に日の光が照らされた。

 とても気持ちよさそうにしているマリ。


「はっ! やらかしてしまいましたわ! 帰ったらお父様たちからお説教ですわぁぁぁ!」

「……前々から思っていた。マリ様のご両親、大袈裟。ちょっとくらい日に当たったって私も日焼けなんてしたことがない」

「確かにそうかもしれませんが」

「……マリ様のご両親の命令で、いつもあなたはロクな目にあっていなかった」


 ちょっと二人に気まずい空気が流れているような……。

 私が変なことを提案しちゃったからかもしれない。

 止めようと二人の間に入ろうと思ったのだが、その前にマリがなにか決意したような雰囲気を出していた。


「そうですわね……。わたくし自身が変わるためにリバーサイド王国まで足を運んだのですもの。やってしまいますわ日光浴を!」


 マリの使っていた傘は閉じられ、空に向けて顔を差し出している。

 とっても気持ちよさそうにしているマリ。

 それを見て私もホッとした。


「……ねぇ聖女様。私もやって良い?」

「ん? なにを?」


 モナカが突然私におねだりをするような素振りを見せながら言ってきた。


「……どろんこあそび。こういうの、非常に興味深い」

「え!? 本当に!?」

「……それに、さっきのてんとう虫。聖女様の捕まえ方がただものではなかった。相当な修行を積まなければできない芸当」

「うんうんっ♪」

「……私もマリ様のようにハメを外して楽しみたい。この国で私自身も変わりたい!」


 嬉し泣きをしてしまいそうなくらい嬉しかった。

 今までどろんこあそびを一緒にやりたいと言ってくれる人はいなかったのだから。


 アクアが遠目から『良かったですね』といった感じの微笑みを向けられる。


「私の作業服貸してあげるから、すぐに着替えて一緒にやろー」

「……楽しみ」


 それは私も一緒である。

 マリは日光浴、モナカは私と一緒にどろんこあそびをして楽しんだ。


 あっという間に時間は流れ、そろそろ終わりにしようと思ったころ。


「あれれ……?」

「……なにか?」

「う、ううん。なんでもない」


 モナカから聖なる力を感じたような気がした。

 ふとマリを見てみると、彼女からもそんな雰囲気があった。


 楽しみすぎて私が勘違いしているだけかもしれないし、このことは黙っておこう。

 ぬかよろこびさせてしまったら申しわけがないから。


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追放聖女のどろんこ農園生活 ~いつのまにか隣国を救ってしまいました~
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