111話 フラフレはマリとモナカとクッキーを食べる
謁見が終わってすぐ、私はマリとモナカ二人と応接室で話すことになった。
アクアも一緒についてくれている。
予め紅茶とクッキーが用意されていて、ソファーにそれぞれ腰掛けるとすぐ、マリが私に視線を向けてきた。
「聖女様……。くどいかもしれませんが、本当にわたくしたちのことを許してくださるのですか? あなたが地下牢に幽閉されていることを嘲笑っていたのですわよ……」
「んー……とは言っても、直接なにかされたわけじゃないしなぁ」
二人から敬語は使わないで欲しいと言われたため、敬語を使わないようにしている。貴族様相手に良いのかなぁ……。
今となってはだけれど、元王女のアクアに対しても仲良く喋っているわけだし、まぁいっか。
「聖女様が追放されたときも嘲笑っていましたわ……」
「それも覚えてないし、気にしなくて良いよ」
「は……、はぁ……」
昔のことはどうであれ、今は必死になって謝罪してくれている。
なにか後遺症になったり心に深い傷を負わされていたら違ったかもしれないけれど、今の二人の気持ちを優先したい。
それに、過去のことを責める気なんてない。
「二人とももうそのことは気にしないで。さーさ、このクッキーとってもおいしいんだよ。アクア特製クッキーだから♡」
「あら、良く私が作ったものだとわかりましたね」
「うん。見た目と香りでアクアが作ったやつだぁってわかった」
なにしろいっぱい食べさせてもらっている。この形と香りはアクアにしか作れないものなのだ。
「では、聖女様のお言葉に甘えていただきますわ」
「……いただきます」
クッキーを一口つまむと、ほっぺがとろけ落ちたかのような可愛い表情をしていた。
うんうん、やっと笑顔になったようで私も嬉しかった。
「こんなおいしいクッキー、専属の料理長でも作れませんわ」
「……まさに国王級。天才」
「ふふ……、そう言っていただけて作った甲斐がありますよ。でも、このおいしさの秘訣はフラフレ様にあります」
「んが?」
クッキーを勢いよくモグモグムシャムシャしているときに、なぜか私も手伝ったかのようなことを言われてしまい、口が止まった。
思いあたる節が全くないのだけれど。
「実は隠し味に、フラフレ様のどろんこあそびで収穫した野菜を混ぜています」
「え!? 全然気がつかなかった」
「隠し味ですからね」
「聖女様のどろんこあそびとはいったいなんなのですの……?」
マリが紅茶をすすりながら興味津々のようだ。
やっと落ち着いてくれたのだと思う。
「フラフレ様は王宮の裏庭で毎日どろんこあそびをしながら野菜を育てているのですよ」
「おぉ!」
モナカが激しく反応してきた。
もしかして、モナカはこういうことが好きだったりして?
「王宮だけでなく、今は王都内にある農園を順番に回り、聖なる力でおいしい野菜を育ててくださっているのです。聖なる力のことは民間人には秘密にしていますが、ここ最近野菜の評判がとても良いのですよ」
「……農業をしながら聖なる力? 考えたこともなかった」
「わたくしたちの聖女の力って、太陽に顔を出してもらい晴れにさせることだとばかり思っていましたわ」
「詳しくは国内にいる年配の元聖女様から教えてもらったことですが、フラフレ様の聖なる力に関しては特殊なようですね」
「ん……と、趣味を満喫していたほうが聖なる力が良くなるみたいで……えぇと……」
私はミラーシャさんから教わったことを伝えようとしたが、言葉に詰まってしまった。
説明は苦手……。
「聖女様! 一度祈っているところを見せてくださりませんか!?」
「……同じく、聖女様が普段祈っているところを見てみたい」
「うん。良いよ〜」
みんなには黙っているけれど、ミーリのことは心配だ。
でも、最近分かったことがある。
毎日楽しんでいるどろんこ遊びをしていると、リバーサイド王国のみんながなぜか元気になっていく、……ような気がする。
だからこそ今私がするべきことは……。
「食べたら裏庭へ行こっか」
アクアが一瞬だけ微笑んでいたように見えた。
次回更新は11/1(金)です。
今後、第1金曜日と第3金曜日に更新します。
どうぞよろしくお願いいたします。
 





