109話 フラフレは謁見に参加する(前編)
玉座の間での謁見が始まった。私もフォルスト様の真横に起立した姿勢だ。アクアももちろん隣でフォローしてくれている。
毎度のことだが、謁見となるととても緊張してしまう……。
フォルスト様の恋人という扱いだったら、謁見に立ち会う必要はないと思っていた。
しかし、フォルスト様はこう言う。
『将来的に私の横で正式にいてもらう必要があるのだよ』
うーん、どういうことなのかがイマイチ理解できなかったけれど、必要ならば私も頑張るよ。
それにしても、そろそろこの雰囲気には慣れたい。
頭の中では『しっかりしなきゃ!』と、私は意気込んでいて、じたばたしないようにしている。
謁見中は集中集中!!
「マリと申します。ハーベスト王国伯爵家の娘です」
「……モナカです。同じく子爵家の娘です」
「ん。フォルスト=リバーサイドだ」
礼儀正しい令嬢たち。
さすが貴族の人たちといった感じだ。
私も礼儀正しさは見習いたいよ……。
えぇと、フォルスト様が挨拶した次に私の名前を名乗るんだったっけ。
けれども令嬢のお二人は、片膝を立てて頭を深く下げたまま。
それはもう、顔と床が密着するくらいに。
すると、二人は私に顔を向けてから再び深く頭を下げた。
「「申しわけありませんでした!!」」
「んが?」
予定が狂って変な声も出てしまった。
私は『フラフレと申します』と、礼儀正しく挨拶するはずで、その返答だけをイメージしていたのだが……。
「ハーベスト王国にいたころ、数々の暴言を聖女様にしたこと……それだけではなく追放された時には嘲笑い見下し――」
マリと名乗っていた茶髪の子、なんとなく雰囲気がミーリと似ているような気がする。彼女は涙をこぼしながらの説明が始まった。
「えぇと、顔を上げてください」
「はい……。謝っても許されることでないことは重々承知していますわ」
最初挨拶された時は誰だか全然わからなかった。
しかし彼女の話を聞きながら、よーく考えてみた。
私が廃棄処分され追放されたあの日、ミーリの後ろに彼女たちがいたような記憶を思い出せた。
当時は辛かったが、頑張らないと思い出せなかったくらいの出来事。
過去の話だし、それに……。
「涙を拭いて、もう謝らなくて大丈夫ですよ」
「そうですよね……。どんなに謝罪しても聖女様の心を傷つけた罪は許されませんもの」
二人ともさらに落ち込む。
しまった!
言い方を間違えたらしい。
違う解釈で捉えられてしまったみたい。
「誤解させてごめんなさい。許します、ということですよ」
「「へ……?」」
今度はあっけらかんとした表情を浮かべる。
「そもそもジャルパル元国王が私の悪い噂を流していたから私が悪者になっていたわけですし。それに、こんなに謝ってくれているのに許さないわけないでしょう。二人ともそんな悲しい顔しないでください」
「「ありがとうございます……」」
私が怒るべき相手はジャルパル元国王と、宝物の金貨を奪おうとした大悪党の三人組だ。
ハーベスト王国の人たちを責めるつもりなんてない。
もちろん当時は辛かったし全部無かったことにはできない。それでも二人がこうして謝罪してくれたことは嬉しいし、しっかりと受け止めることにした。
フォルスト様も静観しているが、なんとなく嬉しそうな表情をしていた。
うんうん、平和に解決できて良かったからだよね。
「フラフレは本当に心優しいのだな」
「ふぇっ!?」
フォルスト様が小声で私にそう囁いてきた。
不意打ちだったため、私は驚きの声をあげて再び場を乱してしまう。
「こほん、ところでそなたらはフラフレへの謝罪が目的でリバーサイド王国まではるばるやってきたのかい?」
「大変図々しいことは承知のうえでです。この度貴国へ訪れたのは、それだけではありませんわ……」
「目的を聞こう」
「……ミーリ様が行方不明」
(え"っ!?)
私は心の中で叫んだ。
落ち着けないけれど落ち着かなきゃ!
まずは彼女たちの話をしっかり聞かないと……。
「……ミーリ様が使われている馬車が戻られていました。しかし、彼女は全く姿を見せず」
「ミーリ様は帰国された当日に土産話を持ってくると言っていたのですわ」
「……バルメル陛下、つまりミーリ様のお父様にも確認をしました。しかし、まだ帰っていないの一点張り」
ミーリと喋り方が似ている『ですわ』口調のマリと、大人しい雰囲気のモナカがとても心配しているように見えた。
きっと、彼女たちとミーリはとても仲が良いんだなぁと思う。
もちろん私も話を聞いていけばいくほど心配になってくるわけで……。
「まさか、帰ったと見せかけて、私みたいに地下牢へ監禁されたとか!?」
ここにいる全員から視線が集まった。
またやっちゃったかも……。大事な場所なのに、つい思ったことをすぐに喋ってしまうなんて。
だが……。
「ふむ……。ミーリ殿がこの国を出た日を考えても、とっくに帰国しているはずだ。だが、彼女を地下牢へ追いやる理由など全くないと思うが……」
「そうですよね、ごめんなさい。急に喋ってしまって」
「フラフレもミーリ殿のことが心配なのだろう。謝ることではない」
フォルスト様が優しく言ってくれた。しかしいつもの微笑みはなく、むしろ真剣な表情をしている。
フォルスト様もまた心配しているのだろう。
「ミーリ様は死に物狂いで晴れるように祈っていました。しかし、結果は伴わなかったのです。最後の手段として聖女様に助けを求めてリバーサイド王国へ遠乗りしたのですよ」
「その間、わたくしたちはバルメル陛下から散々叱責を受けましたわ。聖女なのに全く晴れさすことができなければ廃棄処分と処す……と」
ジャルパル元国王も大概だったけれど、バルメルという国王もかなりひどい。
「マリ令嬢にモナカ令嬢よ。そなたらに対し叱責を受けたのは、ミーリ殿が遠乗りに出てからではないのか?」
「そうですわ……」
「ふむ、フラフレが先ほど言っていた可能性もあるかもしれない」
フォルスト様の予感はよく当たる。
本当にミーリが地下牢に監禁されてしまっているとしたら、それは大変なことだ。
ごはんはほとんどもらえないし、どろんこ遊びもできない。なにもすることがなくただただ時間だけが流れていく地獄のような空間。
でも、どうしてミーリがそんな目に遭わなければならないのかいささか疑問だった。
「あくまで私の予感と推測だ。事実かどうかは――」
「陛下の予感では、ほぼ間違いないでしょう!」
アクアが革新に迫る勢いで会話を遮るようにそう言った。
「だとしても、フラフレのように残酷な扱いはされてはいないはずだ……確信は持てないが」
「どうしてミーリが地下牢に……? 私のように孤児院出身ではないのに」
「仮にミーリが地下牢に閉じ込められていると仮定して、バルメル国王は彼女たちをハーベスト王国から追放するのが目的なのではないか?」
「「なっ!?」」
「ミーリ殿から聞いたことだが……。フラフレが追放されたときも、理由の一つに貴族聖女だけで国を守っていきたいというものがあった」
「まさか、バルメル陛下はミーリ様一人だけの手柄にしようと……」
マリはそう言いながらも納得しているような表情をしていた。
「バルメル陛下はジャルパル様よりも強欲だという噂がありましたわ。ミーリ様だけで国を護れるのならばバルメル陛下にとってはわたくしたちは邪魔になるでしょうね……」
「……でもミーリ様だけで国を守るなんて無茶苦茶すぎます。かと言っても私たちではもはやなんの力にもならない。廃棄処分されても致し方ない……」
「そんなことないよ!」
私はいてもたってもいられず、ちょっとばかし声を荒げた。
大変大変お待たせしてしまい申し訳ございません!!!!
久しぶりの更新になってしまいました。
123話まで執筆済みです。
※WEB版どろんこ聖女は、会話でない文章(地の文)をより主人公フラフレの心情に近い雰囲気でこの話数から更新していきます。
次回更新は翌週金曜日です。





