108話 フラフレの嫌な予感
朝食をフォルスト様と一緒に食べながら、外をふと眺める。
空は久しぶりに太陽がサンサンと照らす快晴だ。
昨日の祈りは張り切りすぎちゃったかな。
「昨晩さっそく祈ってくれたのかい?」
「はいっ! 楽しみだったのでついつい頑張りすぎちゃったみたいで……」
「そうか、ありがとう。窓にもヒビが入ってしまったと聞いたのだが」
「そうなんですよ……。なぜか急に」
またしてもミーリのことが気になってしまった。
なんでこんなに気になっちゃうのだろう。
「それは、フラフレの聖なる力が規格外だから窓が耐えられなかったということではないのかい? もちろん、だとしても責任を感じることはないのだよ。どちらにしてもそろそろ交換の時期だったから」
「いえ。どんなに祈っても物理的になにか壊れるようなことはないはずですよ……。もしもそんなことができるなら、ハーベスト王国の地下牢に幽閉されていたころ、必死になって脱出していましたし」
植物や土、野菜などには影響があるみたいだけど、ガラスや鉄、そういった物質にはさすがにどんな祈りをしてもなにも起こらないとは思う。
フォルスト様も、私のことを心配してくれてそう言ってくれたのだろう。
まぁ私の予感なんて毎回見当ハズレばかりだからなぁ。
金貨が悪党三人組に盗まれちゃったときも、実は私を狙っていただなんて全く思っていなかったし。
こないだも、トイレを我慢していると思ったら全く別のことでそわそわしていただけだったみたいだし。
今回も気のせいだよね。うん。そうと考えれば少し気は楽になった。
「それもそうか。すまない、聖なる力のことは無知なことが多くてな」
「でも、ミーリのことを思い出したらいきなりヒビが入っちゃって、ちょっと心配なんですよね……」
「うーむ……。そう言われてみると私も少々心配な気がしてしまっている」
「「えっ⁉︎」」
壁越しに待機しているアクアと一緒に大きな声を出してしまった。
せっかく安心してきたのに、ふりだしに戻った。
というのも、フォルスト様の予感は本当に的中しまくる。
フォルスト様がカップに入っている飲み物をゆっくりと口に流しながら、目を瞑った。
「ま、まぁ他国を悪く言うのもどうかとは思うが、ジャルパル王の弟が現国王なようだしな。現国王がどのような者かはわからないが、ミーリ殿も苦労しているだろう。そう言った意味での心配……と言うことだ」
私には、なんとなくフォルスト様が今回ばかりは嘘をついてなにかを誤魔化しているようにも見えてしまった。
まぁやっぱり考えすぎても仕方ないし、ミーリが元気にしていることを願ってごはんをちゃんと食べよう。
普段よりも時間がかかった食事もようやく終わり、最後のデザートに口をつけた。
今日はアクア特製、野菜ゼリーだぁ♡
野菜の旨みと砂糖の甘味を同時に楽しめるため、私はこれが大好き。
なぜか他の人たちには不評みたいだけれど……。
「ところで、昨日ようやく川の工事が完成したのだよ」
「ほんとですか⁉︎」
「あぁ。しっかりと雨水や上流からの水も流れ、王都が常に晴れていても水に困ることもなくなったと言えるだろう」
これで毎日祈ってずっと晴れていても大丈夫な王都になった。
毎日祈れることは私にとっても嬉しいし、安心だ。
「フラフレの協力なしではこんなに早く完成できなかったよ。本当に感謝している」
「私はただ、飾れなかった金貨の有効活用をしただけです」
「金貨の使い方はさておき……、それだけではないよ。毎日新鮮かつ聖なる力が宿った野菜を届けてくれていただろう。あれを食べ続けていたおかげで皆元気に疲れ知らずで活動できた」
「そんなことを言ってくれて嬉しいです」
育てた野菜を喜んで食べてくれていた工事の人たちを見ていて、私も嬉しい気持ちになっていた。
そこはお互い様だと思うけどなぁ。
「今日は完成記念で一番貢献してくれたフラフレに来てもらいたいのだが」
「は、はい! 私も完成した川を見てみたいですし」
「それは助かる。皆、フラフレに感謝していたからな」
「いえいえ……。私はなにも」
むしろ、届けた野菜をみんなおいしそうに食べてくれてありがとうと言ってしまおう。
うん。先にお礼を言ってしまえば良いのだ。
そうしよう。
作戦も決まったところで食堂から出ようとしたとき、慌て気味にウェルマーが入ってきた。
彼女は現在、王宮で働いてもらっているのだ。
「はぁ……はぁ……突然申しわけございません! またもハーベスト王国から来客です」
「そんなに慌てているということは、またもフラフレを狙っている連中か⁉︎」
フォルスト様とアクアが急に警戒態勢に入った。
しかし、ウェルマーは首を横に振る。
「いえ、今回は危害を加えようとする者たちではないかと。ハーベスト王国の聖女ですから」
「もしかして、ミーリが遊びにきてくれたってこと⁉︎」
私はワクワクしながら尋ねたが、またしてもウェルマーは息を切らしながら首を横に振った。
「いえ、マリ伯爵令嬢とモナカ子爵令嬢です」
「まりはくしゃくさん? もなかししゃくさん? ずいぶんと名前が長いんだね」
「フラフレ様……、伯爵、子爵は名前ではありませんよ。マリさんとモナカさんですね」
またしてもアクアから教わった。貴族の爵位というものらしい。
むずかしい……。
「こほん、ところでウェルマー殿が慌てているということは、なにかわけありなのだな?
「はい。一刻も早く陛下と謁見したいと。可能ならばフラフレ様も一緒を希望しています」
「フラフレに暴言含め危害を加えないのであれば開こう。なにか聞いているのか?」
「はい……。どうもハーベスト王国内でトラブルが起きているようで、ミーリ様が……」
「え? ミーリになにかあったの⁉︎」
「私は軽く聞いただけですので、できることなら本人たちから詳しく聞いたほうが良いかもしれません」
「フォルスト様っ! 早くゼッケンを開きましょう!」
「あぁ、そうしよう」
あとでアクアから、私が言い間違えたことを丁寧に教えてくれた。





