107話 フラフレは久々に祈る
夕食後、私の部屋でのんびりしながら、ふと窓越しから外を眺めた。
雨がザーザーと降っている。
日課だった祈りをしないで十日。聖なる力の効果もなくなったようで雨が降り始めたのだ。
そして今日で五日目。
私は半月もの間、太陽が姿を現してくれるための祈りをお休み中なのである。
「うーん……」
「どうかされましたか?」
壁際で立っているアクアが、心配そうにしながら私のそばに近づいてきた。
あ、うっかりまた心配かけちゃった。
「大したことじゃないよ。ここに初めて来たときのことを思い出していたんだ」
「そう言われてみれば、フラフレ様がここへ来られたときまでは毎日このような天気でしたね」
「うん。なんだか懐かしいなぁって」
あのときは右も左もわからず、アクアやフォルスト様がもしかしたらジャルパル陛下の仲間かもしれないだなんて思っちゃっていたっけ。
そんなことないのにね。
「違うと言えば、部屋中に散乱……こほん、部屋中に飾っている金貨があるかないかくらいですね」
「うん。川の工事で飾りきれなかった分はほとんど使っちゃったけど、トイレや廊下には飾っちゃダメなんだもんね」
「はい。だめです。絶対に!」
アクアがそれだけはやめてくれと言っているし、もちろん今は飾るつもりはない。
それよりも、もう少しで川の工事が終わって、雨が降らなくても問題のない王都になってくれるほうが嬉しい。
金貨を飾らなくて良かったよ……。
「いつまで祈らない日が続くのかなぁ……」
アクアたちには黙っているが、リバーサイド王国と太陽が仲良くなってくれる祈りは私の日課だった。
それをしばらくやらないのはむずがゆい気持ちになる。
「そうそう、言い忘れていましたが、今日からは祈っても良いと言っていましたよ」
「ほんとっ⁉︎」
私は無意識にアクアの顔のすぐそばまで顔を近づけてしまった。
アクアがクスクスと笑みを浮かべる。
「ふふ……。無理しなくとも良いのですよ。今日のフラフレ様は農園で雨にずぶ濡れになりながら土に祈りをいっぱい捧げていたでしょう?」
「うん。水も大事だけれど、あまりにもべちゃべちゃになっちゃったら良い野菜に育たないかなぁって思ったから、いつもより気合いは入れていた」
「ですから、陛下は本人に聞かれない限りは祈ることを言わないように指示されていたのですよ。無理はさせたくない気持ちは私も同じですので」
前にミーリが聖なる力を上げるためにここで修行していたときのことだった。いっぱい祈りすぎてミーリが疲れ果ててめまいを起こしてしまったことがあった。
そのときアクアやフォルスト様も一緒だったため、心配してくれているのだろう。
でも、どちらかというと祈れなくてムズムズしている感じだから大丈夫だと思う。
「そっかぁ。でも、全然元気だし、祈っても良いのなら、久々にやりたいんだよなぁ」
「決して無理なさらぬように」
「うんっ! ありがとう」
「それはこちらこそです。いつもリバーサイド王国のためにありがとうございます」
ごめん、今回も国のためというより、やりたいからという好奇心だけなんだ。
久しぶりの太陽への祈り。
ドキドキしながら窓際に向かって手を合わせた。
『どうか、リバーサイド王国と太陽が仲良くなってくれますように……』
祈った。
あぁ、この感覚がたまらない。
「むふふふふふふふふふふふふ〜〜」
「……規格外のフラフレ様に心配する必要はなかったのかもしれませんね。むしろ楽しみを奪っていて申しわけございません」
「そんなことないよ。心配してくれるのも嬉しいし、こんなに久しぶりだから新鮮な感覚だった」
「ハーベスト王国でもミーリさんは同じように祈れていると良いですね」
「そーだね。ミーリともまた会いたいなぁ」
ザーザーと降っていた雨が、徐々に弱くなっていく外を眺めながら、遠くにいるミーリのことを思い浮かべた。
そのとき、どういうわけか急に窓にヒビが入った。
「あらあら……、大雨で窓が痛んでいたのかもしれませんね。危険ですから窓から離れてください」
「う、うん……」
「明日、フラフレ様がどろんこ遊びをしている最中にでも、すぐに窓の修理をするよう依頼しますので」
「うん……」
なんか寒気がしたけれど、気のせいだよね?





