106話 フラフレは勘違いする
「一刻の猶予もないかと思います。このままでは(漏らして大惨事になったら)玉座の間が危険ですし、早く(トイレへ)連れていったほうが……」
私は失礼ながらも男二人に対して指差しで顔色が悪いことを訴えた。
すると男たちは猛反発。
なんで……? トイレへ行きたいことを教えてあげたつもりだったんだけど……。
「ば、ばかな! 聖女様! 俺たちはまだなにもしていないでしょう!」
「まさか、ウェルマーよ。本気でハーベスト王国の叛逆になる気だったのか? それで聖女様に全てを話したのか⁉︎」
「くそう! 道理であっさりと犯人扱いか! 俺たちを捕まえるために王宮へ連れてきたってわけだったのか!」
話がおかしなことになってきている。
彼らは立ち上がり、トイレへ向かわずに私のほうへと向かってきた。
しかし、周りにいた護衛やガイハルによってあっというまに取り押さえられた。
「う……ぐ……。俺はハーベスト王国で一番の筋力を持っているのに……なぜこんなに簡単に……」
「こちとら生きていくために十年以上身体を限界まで鍛えてんだ。しかもリバーサイド王国の人らは毎日生きていくのに必死だった。護衛ともなれば、命をかけるために必死になって鍛え続けるのは当然のことだ」
ガイハルは呆れながら吐き捨てた。
「計画では全員倒してもなお簡単にこの女を連行できるはずだったのに……。俺が負けるだなんてありえん!」
「はっきり言おう。おまえ、この国では弱い。俺たちの大事なフラ……聖女様に指一本触れさせねーよ」
「く……くそう……。聖女のやつはまるで俺たちだけがハーベスト王国に忠誠を誓っていると見抜いているようだった……」
いえ、トイレへの催促をしただけです。などと、言えるような状況ではなくなってしまった。
恐るおそるフォルスト様の表情をうかがったが、ニコリと微笑んでくれた。
「まさかこんな簡単に墓穴を掘るとは思わなかった……。またフラフレのおかげでことが片付いたようだ」
「え?」
「フラフレのひとことがなければ、こうはならなかっただろう。早く捕らえたい気持ちは私もあったが、あくまでも他国の人間。決定的な証拠がなければ行動に移すのは難しかったのだよ……」
「そうではなくてですね、わ、私はただ……」
「謙遜しなくとも良い。むしろすまなかった。フラフレを一瞬とはいえ危険な目に遭わせてしまったのだから……。今後はもっと対策を考える必要がありそうだな」
男二人は悔しそうにしながらガイハルたちによって連行されていった。
残った三人の来客はひたすらに土下座の姿勢をとっているのだが……。
「た、大変申しわけありません! まさか裏切りがいるなど……本当に気がつけませんでした」
ウェルマーは、もうダメだといった雰囲気を漂わせていた。
「そちらの三名は丁重におもてなしをするように!」
「え、このような失態をしてしまったのに、よろしいのですか?」
「無論だ。そなたらは本当に聖女フラフレを守ろうとしてくれていたと思う。私は信じるよ」
「陛下……」
ウェルマーたちに優しい言葉をかけてくれていて、私も嬉しかった。
もしかしたら、ミーリに続いて彼女たちとも親しき友達になれるような気がしたからだ。
ミーリみたいに、どろんこあそびをしてくれる仲になれたら最高だなぁ……。
連行された男たちなどすっかり忘れ、この先の妄想が膨らんでいき、ニヤニヤとしていた。
「さすが聖女様です……」
「へ?」
私がニヤけていると突然、ウェルマーが私に対してそう言ってきた。
振り向くと、なぜか感動しているようだった。
「命の危険にあわれていたというのに、なにごともなかったかのように笑顔。さらに先ほどは陛下に対して尊敬の眼差しを向け目でお礼を伝えている……。謁見の最中も陛下に対して、危険だよと目で訴えているようでしたし」
「ん、んんんんーーー?」
謁見の最中にフォルスト様をチラチラ見ていたことは認める。
それは、落ち着いていなかった男がトイレに行きたいのかなと思っていただけ。
もちろん、怪しい男だなんて微塵も思っていなかったのだが……。
「フラフレよ。自らの敵が身近にいると気がついていながらも、逃げようとせずにここに残っていたことは感謝する。おかげで被害もなかったのだからな」
「ん、んんんんーーー⁉︎」
「おそらくフラフレが冷静でいられなかったら、もしもフラフレの発言がなかったら、このように簡単に捕らえることができなかっただろう。さらには彼女らも受け入れることができなかったかもしれない」
「い、いえ、そうでなくて」
「何度も言うが、謙遜しなくとも良いのだよ」
さっきは本当にトイレの心配をしていただけなんだってば!
そう正直に伝える前に、ウェルマーたちが崇拝するように、私に対して土下座の体勢をとってきてしまった。
これでは本当のことを言いづらいではないか……。
結局真実を伝えられないまま謁見が終わってしまった。
ウェルマーたち三人は、無事にリバーサイド王国の国民となり、これからはきっと楽しく暮らしていけるんだなぁと思う。
捕らえた二人に関しては、事情聴取を続けていきそのまま牢獄生活になるそうだ。
私のことを捕らえてハーベスト王国に強制連行するつもりだったらしい。
だが、ジャルパルがウェルマーにも命令してくれたおかげで、私は救われたのかもしれない。
そう思っておこう。





