105話 フラフレは心配になっている
ウェルマーと一緒にリバーサイド王国へ来た関係者全員を連れて王宮へ戻った。
彼女含めて全部で五人。男性三人と女性二人。
そのうちの金髪でとんでもなく筋肉マッチョな男性が、王宮へ到着してからなぜか落ち着かない様子だ。トイレを我慢しているのかな。
アクアが事情をフォルスト様に話し、そのまますぐに玉座の間で謁見が始まる。
もう警戒しなくても良い気はするのだが、なぜか今もアクアが私の前に立っていて、守ってくれているような状況だ。
五人とも膝を床につけ、頭を下げる体勢になっている。
「顔をあげ、立ち上がりたまえ」
フォルスト様がそう言うと、全員が起立の姿勢に戻る。
ウェルマーが五人の中心にいて、さきほど落ち着きを見せなかった男性はそのすぐ横。
「話は聞いた。ハーベスト王国から脱出し、亡命を求めていると聞いたが、間違いはないか?」
「え――ふぐぅっ! ……んがんが」
浴槽のときと同じように、アクアの両手で私の口が塞がれ、自由を奪われた。
つまり、今回も話を合わせて私は喋らないようにしてということか。
二度目だしすぐに理解できた。
でも、どうしてアクアは話を少し変えて報告したのだろう……。
ウェルマーが口を開く。
「いえ、亡命とは少々異なります。元々はハーベスト王国のジャルパルによって作られた裏組織のメンバーです」
「ほう……話を聞こう」
「そちらにいらっしゃる聖女様を誘拐、もしくはそれができるための情報収集を命じられていました」
ウェルマーが先ほど私とアクアに喋ったことと全く同じことを説明していく。
彼女の隣にいる筋肉マッチョさんが焦っているようだ。謁見の前にトイレを済ませておけば良かったのに。
しかも、誰も彼がトイレへ行きたいことにも気がついていないようだ。
あわわわわ、こんなところで漏らされたら掃除が大変だよ……。
フォルスト様にチラチラと顔を向けるが、全く気がついてくれない。
アクアも真正面だから目が合うことはない。
トイレのことなどお構いなしに、話はどんどんと進んでしまう。
「ふむ。そなたらは聖女を助けるために、リスクを承知のうえで自らの立場も話してくれた。感謝する」
「「「え……?」」」
「「うっ……」」
ウェルマーたちはフォルスト様に対して驚いていた。
きっと、予想しなかった返事をされたのだろう。
「諸君らの受け入れを認めたいところだが、すまない。ひとまずそちらの右側にいる男二名に関しては、我が国の監視のもとでの受け入れとさせてもらうが」
「なっ⁉︎ わ、わたしと彼だけなぜ? お言葉ですが差別では?」
「あぁ。そう思ってくれても構わない。私の予感でそう判断しているのだから」
フォルスト様の頑張りと優れた予感を評価されて、リバーサイド王国の国王になったと言っていた。
それを知らない人たちから見たら、『なんで自分だけ別の扱いを受けるんだ?』と思ってしまうだろう。
きっとフォルスト様はこう言いたいのだ。
『トイレに行きたいのだろう? 監視をつけておくから早くいってきたまえ』
さすがフォルスト様だ。そわそわとしていなかった男性の事情まで把握してしまうなんて。
しかし、指名された男たちは苛立ちをあらわにしながら文句ばかりを言ってくるようになってしまった。
「よ、予感? そんなことだけで差別のようなことをするお国なのですか?」
「うむ。不思議と私の勘で国を立て直してきたようなものだからな。勝手な国であることは認めるし、他国の者にはすまないと思っている」
「しかし」
「よせ。異国の陛下に対し無礼だぞ!」
ウェルマーが必死に止めようとするが、男二人の言葉の暴走が止まらない。
いや、ここは止めてはならないのだ。
ここは勇気を出して、私も発言してしまおう。
「あの、ひとつよろしいでしょうか?」
「ん? 聖女よ。どうかしたのか?」
フォルスト様も私に対して今だけは聖女と呼んでいる。警戒するようなことでもあったかな? とにもかくにも助けなきゃ!





