102話【Side】ジャルパルとバルメルの目的(24/07/08修正)
バルメル=ハーベスト国王の屋敷内では、ジャルパル前国王が娼館から好みの相手を召喚して満喫していた。
当然バルメルは気分を害しているわけだが――。
「バルメルも楽しんだらどうだ?」
「いえ、私は兄上のように女癖は悪くありませんので。国王としてそのような行動をとるわけにはいきません」
「ふ……。私は国王であったときも、ほぼ毎日宴を楽しんでいたのだがな。バレなければなんの問題もあるまい」
「フラフレに盛大にバラされたでしょう」
「あの公開処刑だけは絶対に許せぬ!! フラフレを連れ戻した際にはたっぷりとお返しをしてやろう」
バルメルはジャルパルから弱みを握られているため、どうすることもできない。
国王であるバルメルが脱獄したジャルパルをかくまっていることが周知されれば、国王としての信頼は大幅に下がるだろう。
それに、娼館から呼んでいる女性たちには、バルメルから多額の口止め料が払われている。もし彼女たちが他言するようであれば、当然命はない。
「それにしても兄上は、のんきですな。聖女フラフレを連れ戻すために動くかと思えば、毎日女三昧ではありませんか」
「問題はない。すでに手は打ってある。リバーサイド王国で部下が重要な手がかりを掴んでいることだろう」
「私は兄上の部下について、なにも聞いていないのですが」
「当然だよ。私の極秘部隊なのだから」
ジャルパルは、多額の金で雇っている裏組織のことを誰にも話していない。
だからこそ容易に脱獄ができたのだ。
もしもバルメルに裏組織のことを話していたら、真っ先に裏組織を一網打尽にされていただろう。
手段は選ばないバルメルだが、ハーベスト王国の発展と平和は考えているのだ。
「全く信用しておらぬな?」
「今の兄上を見ていたら当然です。あまり長引くようならば、兄上といえど再び牢獄に入ってもらう手段を考えますぞ?」
「ほう、そうくるか。せっかく国王としての手柄を与えてやろうと動いているのに」
「結果が出ないのであれば、見切りをつけることも必要ですので」
ジャルパルは一時的に眉間にシワをよせて悩んだ。
たしかに毎日女との堕落した日々しか見せていなければ、信頼を失っていても仕方がない。
そこでジャルパルは、裏組織のことだけを伏せつつ、リバーサイド王国に送った使者について話した。
「……なるほど。フラフレを誘拐できるほどの力量を持った者と、頭のキレる者を送り込んだと。兄上の脱獄も容易にできたことがようやく理解できました」
「フラフレを連れ帰ってきた場合も、彼女は永久に地下牢に放り込む。仮にリバーサイド王国の使いのものがフラフレを返せなどと言ってきたとしても、我々は知らん顔をしていれば良いのだ。国とは全く関係のない者たちに依頼をしているのだからな」
しかし、ようやくミーリがリバーサイド王国から帰ってきて状況が変わろうとしていた。
♢
「ごきげんよう。ただいま戻りましたわ」
「まさかこれほど長期間不在になるとはな。遅すぎるぞ。本来ならば追放もあり得る行為なのだ。もう少し王女としての自覚を――」
「はい。王女として、すべきことをしっかりと果たしたと思っておりますわ」
今までに見せたことのないほど自信を持っているミーリ。
バルメルも、ミーリの迫力のある発言を聞き、興味を出すほどだった。
「いったいどこへ行き、なにを学んだというのだ?」
「ふっふっふ、格段に成果がありますわよ! 花が前よりも好きになりましたわ!」
「ほう、花を……。花……? は⁉︎」
ミーリは、花を愛し自然と向き合うことで聖なる力も強くなっていけることを、うまく説明できずにそう言ってしまった。
バルメルからしてみれば、長い期間をかけて遠乗りしたというのに、趣味に夢中になってどうするのだと言いたかったのである。
「ほら、私がしっかりと祈ってほんの少しだけですが、王宮にほんのりと晴れ間を作ることだってできているでしょう?」
「なななな……なにを……、なにを呑気なことを言っているのだ⁉︎」
「え……⁉︎」
バルメルの怒声が部屋中に響く。
以前よりも絶対的な自信を持っていたミーリ。
口だけでなく、ハーベスト王国を出発したときよりも聖なる力は上がっている。
王宮の花を回復させ、その花を大事にしていければさらに力も増し、やがては王都全体に晴れ間を作ることだってできるはず。
そう思って、ミーリはまず、王宮の上空にだけ一点集中して祈ったのだ。
しかし、焦っているバルメルからしてみれば、王宮だけに天候を祈っているだけでは意味がないと、真っ先に怒りが先行した。
「遠乗りしてただ遊んでいただけだったとは……。こんなことでは民衆に対しても示しがつかん!」
「いえ、ですからしっかりと聖女としての役割を……」
「言いわけ無用! 次期王女としての自覚がまるでない。不本意ではあるが、罰としてしばらく地下牢で反省するのだ!」
「地下牢⁉︎ 私の話も聞いて欲しいのですけれども」
「話は聞いただろう! 私がどれほど焦っているのかも知らずに呑気に園芸でも楽しんでいたのか⁉︎」
「そうですわよ! それが聖女として大事な役目だと知りましたから!」
ミーリは続きを話そうとしたが、その前に周りにいた近衛兵によって捕らえられてしまう。





