ヒーローとは? 4
いかにも病み上がりといった様子の岡寺のぶよが、コーヒーパーラー「ライフ」に姿を現した。
「ほんと、今度ばかりは死ぬかと思ったわよ! 」
「原因不明の熱は何日も全然下がらなくて、そのあいだ、食欲もなくなっちゃうし、せめて眠ろうと思って目を瞑ってみるんだけど、そうすると、私が死んで、そして、ゾンビになって蘇った夢を必ずみるのよ」
そういうと、岡寺のぶよは、険しい顔つきになってハーフのエイリアンのノエル君のことを睨んだ。
ノエル君は、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターがカウンターの上に用意してくれたお人形用のベンチに身を横たえている。
ノエル君は、水から出て肌が乾いても全然困らない様子だ。
また、ノエル君は、水の中でなくとも、普通に呼吸が出来ている。
当然であるが、ノエル君は、水の中が好きではあるが、水の中から出ても魚臭さはない。
それどころか、ノエル君は、体から香水のような香りを発しているのである。
ノエル君は、怪訝な表情を浮かべた。
岡寺のぶよが、自分のことを怒っているのかまったく分からないという気持ちを表した。
「岡寺のぶよさん、あなたは僕のことを嫌いなのですか?」
岡寺のぶよは、ハーフのエイリアンのノエル君の言葉に感情的になった。
「ノエル君! あんた、私を地球人として、低くみてるのじゃないわよね。はっきり言っときますけど、わたし、岡寺のぶよは、あんたのように、占いのよく当たるエイリアンって虫がすかないのよ」
「でもね! わたしがあんたのこと好かないからといって、わたしの事を呪い殺して、ゾンビに変えてしまおうなんてするのは、エイリアンとして正しい生き方かしら? 」
岡寺のぶよは、ノエル君が怒って反発してくると思っていたが、ノエル君は静かに考えをめぐらしていた。
そして、少し間をおいて、ノエル君は、静かに、冷静に岡寺のぶよに語りかけた。
「岡寺のぶよさん、あなたは、あなたを苦しめている病の原因が僕にあると考えているようですけど、それは、間違いです」
ノエル君は、ここで少し間を取り、意を決して言った。
「僕は、エイリアンで、皆さんとは違った力を持っていると言うのは確かです。しかし、岡寺のぶよさんを病にかけて殺したりすることはありません。ましてや、岡寺のぶよさん、あなたをゾンビに変えてしまおうなんて、思っても見ないことです」
「これまで、平和だった東京の街に突然ゾンビが現れることになったり、このゾンビに対応する手段として、人を機械的に強化するパワースーツなるものを投入することが議論される世の中の流れ何か仕組まれたものを感じます」
「岡寺のぶよさん、このように世の中を動かしているのは、わたしではありません」
岡寺のぶよにも、ノエル君の話は、たしかに納得のいく部分があった。
しかし、ノエル君の説明だけでは、納得の行かない部分が岡寺のぶよの中に残っていた。
そこを、岡寺のぶよは、ノエル君に問いただした。
「じやあ聞くけど、最近の空についてどう思う? 最近の東京の空って、どこかおかしいのよ。どこがおかしいか考えてみると、わかったの」
「この東京の空って、この間の新宿のエイリアン騒動の時、私が閉じ込められ、監禁されていた『龍の形見』という不思議なスノードームと同じ感じなのよ」
「『龍の形見』という不思議なスノードームをつかって、東京の街に悪さをしようとしているのは、ノエル君、あなたではないの?」
ノエル君は、岡寺のぶよの追求に動揺してしまった。
「たしかに、『龍の形見』というものを操っているものがいるのは、確かです。しかし、それはわたしではありません。他の誰かの仕業です。しかし、誰が『龍の形見』を使っているのかは、僕にも分からないのです」