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滝ふたば再登場


滝ふたばが、立ち去るどコーヒーパーラー「ライフ」には、マスター一人になった。


マスターは、滝ふたばとは、やりあったが、マスターの心には嫌な思いは少しも残ってはいない。


それどころか、強弁して、決して譲らない滝ふたばに、彼女のパワースーツ開発への本気の情熱が、マスターは、頼もしくも、嬉しくもあった。


コーヒーパーラー『ライフ』の店内に残ったマスターは、滝ふたばが自分も昔抱いていたパワースーツに対する理想をいまも抱いているのだなぁと思った。


かっては、マスターも滝ふたばの父、シンメトリックもパワースーツの開発に邁進マイシンする仲間であった。


しかし、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターも、シンメトリックも、パワースーツの開発から離れてしまった。


しかし、滝ふたばは、パワースーツの開発に一層の情熱を注ぎつづけたのだ。


だから、滝ふたばには、あれほどのこだわりが生まれるのだろう。その理想は、マスターの日常生活の中では縁遠い物になっていた。


      #       #


しばらくすると、クリーンスタッフの社員、高見沢治美から、電話が入った。


今から、高見沢治美は、例のクスリを受け取りに来るというのである。


マスターは、なぜか、高見沢治美に、滝ふたばが来店していたことを告げた。


「滝ふたばさんていうひと、いま、ヒーローズアカデミーの中でとても苦しい立場に置かれているそうですね」


「演劇仲間の情報なんですけどね……パワースーツの開発ですけど、いろんな不都合で暴走事故が頻発しているそうなんですよ」


「このままだと、パワースーツ開発計画に支障が出かねないそうです」


「そうか、来たときにでも、詳しいこと教えてよ」


マスターはどきりとした。コーヒーパーラー「ライフ」には、誰もいないはずなのに、人の気配を感じたからである。


――あの滝ふたばが窮地に陥っているだって? 


ここに滝ふたばがいて、高見沢治美との会話の内容を聴かれているとすると想像すると、マスターは気まずい気持ちになった。


マスターは、手短に電話を切った。


マスターは、五感をぎ澄ましてみた。


すると、マスターは、自分以外は誰もいないはずの店内に、人の気配を感じた。


――おや?


マスターは、だれも姿が見えないのに、誰かがいると確信できた。姿の見えない誰かに向かって話しかけてみた。


「なにか忘れ物でも?」


「……」


マスターは、忘れ物をして舞い戻ってきた客用のおきまりの言葉で話しかけた。しかし、返事はなかった。


「やっと確認できましたよ」


「滝ふたばさん。その光学迷彩には、ホツレの部分があります。そこから、唇あたりの輪郭が丸見えですよ」


マスターは、そう言うと、店の空間ののある地点を指さした。


滝ふたばは、マスターが指さした地点に姿を現した。


「うまくいくと思ったのに。二流の光学迷彩の技術者は、クビにすべきね」


滝ふたばは、チッっと舌を鳴らした。


マスターと滝ふたばとの間に気まずい空気が確かに生まれた。


気まずい空気の中で、最初に言葉を発したのは、滝ふたばであった。


「ついに、現場を押さえました。私が動かぬ証人です。それに証拠もあります」


「思っていたとおりです! 」


「ベータミンCの不良品をこの店で売りさばいているみたいですね。アコギにもうけているわけね」


マスターは、滝ふたばの無礼をたしなめてみた。


「隠れて、人の話を立ち聞きするのは良くないのでは」


滝ふたばは、決まりの悪さというか、いたたまれなさを、打ち消そうとしてかマスターに攻撃をしかけた。


というか、滝ふたばは、人に弱みをみせまいと、必死なのだろう。


滝ふたばは、人に同情をかったり、憐れみをかけられるのなら、死んだ方がまし。


武器として、コーヒーパーラー『ライフ』のベータミンCの取引を記録した裏帳簿を開いていた。


滝ふたばは、光学迷彩で姿を隠して、戸棚をあら探しして、裏帳簿を見つけていたのだ。


「それは、嘘だ。金儲けではない。もうける気はない」


マスターはおちついて答えた。


滝ふたばは、黙ってなかった。


「お金のためよ。見え透いている。もうけている」


「それは、ないといっているだろう」


「もういいから、帳簿を置いて、本当に返ってくれ。滝ふたばさん、君をお迎えの車が到着したようだ」


      #       #


その時、リムジンがコーヒーパーラー『ライフ』の前で止まった。


「本当だわ!」


「誰か人をよこしてくれるって連絡が入ってたわ」


「でも、車はいくらでも待っていてくれます。


滝ふたばは、昔のことを蒸し返した。


「ところで、あなたは、ゾンビの女がいて、そのために、その女のために、薬の研究をするために、パワースーツの開発を捨てたのよ!」


マスターが、滝ふたばの手元をよく見ると、滝ふたばは、ずうずうしく、帳簿の他にも、使い古したノートをめざとく見つけそれを手にしていた。


勝手かって知ったる他人の家という、間柄でもないはずだが……。そのノートも、滝ふたばはチェック完了さしてしたところの様子だった。


滝ふたばのこそ泥は、常習犯の熟練の度合いであった。


      #       #


滝ふたばは、すでに何もかも調べ上げていたのか。


「ここに、薬の取引の経緯が、記されている。あなたは、不幸なゾンビのために、この仕事に手を染めたのね。それだったら、情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地があるかもね」


「早く返してくれ。分かっただろう。あなたの欲しがっているようなものは、扱っていないんだ」


「ほかもに帳簿があるはずね。裏の裏帳簿って言うやつ。ところで、私の欲しがっている物って? 逆に私が知りたいわ、アハハ、アハハ」


滝ふたばは、すこし下品な笑い方をした。


「どうしたんだ。なぜ、笑う」


マスターは、聞いた。マスターは、さらに何かを予感した。マスターは、さらに不安になった。


「あなたの秘密を知ったのよ! 偶然ね」


「アハハ、アハハ」


滝ふたばは、帳簿の中から一枚の写真を取り出した。


それは、新しい写真だった。そこには、マスターが隠し持っていた滝ふたばと滝ふたば娘の、滝ケートのツーショットであった。


滝ふたばは、笑い続けた。マスターは黙り込んでしまった。それを見て、滝ふたばの笑いはさらに激しさを増した。


自分を負け犬と哀れむ相手には、滝ふたばは、虚勢をはってでも勝ち誇って見せたいのだ。



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