滝ふたば 8
病み上がりだからといって、睡魔に勝てなくなってしまうのは、まずい!
岡寺のぶよは、その日は、早起きして、近所の河川敷まで散歩してみようと思った。
岡寺のぶよは、翌日早朝外へでてみても、昔ほど爽快な気分にはなれなかった。
岡寺のぶよの頭上には、突き抜けた広大な空というものはなく、空と岡寺のぶよの頭上との間を遮るように、一キロメートル四方にわたって半透明の殻が存在していた。
この殻は、「龍の形見」のような機能を持ったスノードームが、内部に巨大空間を生成したあとの残骸である。
正しく機能していた「龍の形見」スノードームのスノードームとは異なり、この頃は、劣悪な機能の「龍の形見」タイプのスノードームがあちこちで、使われているのであろう。
巨大な空間をその内部に作り出せるこのタイプのスノードームは、昔の「龍の形見」とは異なり、空間を生み出すという機能が実施された後には、半透明の巨大な殻や膜の残骸や痕跡がその場所に残ってしまうというのが常識である。
また、巨大な空間をその中に作り出せるこのタイプのスノードームの残骸が生み出す街を覆うほどの大きさの殻や膜は、太陽光を遮って、薄曇りほどの光しか地上には届かない。
岡寺のぶよが、道を歩いていくと、ゾンビの手足が、千切れて道端に転がっているのに出くわした。
「どうしたんでしょう? 」
岡寺のぶよは、東京に今なにが起こっているのか見当がつかなかった。
「何か、あちこちで、上手く行くはずのことが、上手く行かなくなっている。こういう事態が手に余るものだから、誰もが、見て見ぬ振りを決め込んでしまう。このゾンビの手足の場合もそうなのよね」
岡寺のぶよは、千切れたゾンビの手足からは、どんな臭いも発せられてはいないことにふと気づいた。
岡寺のぶよは、用心深く、屈み込むと、千切れたゾンビの手足の近くまで顔を持って行き、そこで臭いを嗅いでみた。
千切れたゾンビの手足は、まったく臭いを発してはいなかった。
「現実ではなく、現実のようなもの、このゾンビの手足は、ぞんなもの」
岡寺のぶよは、先を急いだ。
岡寺のぶよは、河川敷にやってきて、川岸に、何かの気配を感じた。
子供がしゃがみこんで、両手で何かを握りしめ、握りしめたものに食らいつき、食らいたものを引きちぎって、引きちぎったものをクシャクシャと音を立て噛んでいき、最後に飲み込んだ。そして、子供は、両手に握りしめたものにまた食らいついた。
子供は、岡寺のぶよには、まったく無警戒であった。
岡寺のぶよが、子供に近づいても、子供は、子供は、岡寺のぶよに気づくことはなかった。
岡寺のぶよが、子供の背後に到達すると、子供からはっせられている魚の生臭い臭いが岡寺のぶよの鼻を突いた。
岡寺のぶよは、子供に声をかけた。
「ノエル君! 大きな身体になっているんで見違える所だった」
エイリアンのハーフのノエル君は、振り返った。
エイリアンのハーフのノエル君は、振り返って見るとそこにいるのが、岡寺のぶよとわかって、両手に持っていた魚を後ろ手に隠した。
しかし、エイリアンのハーフのノエル君の口の周りにはたくさんの魚のウロコが付いていた。