滝ふたば 7
「もう一度聞かせて下さい」
「ドレミヒーローについてあなたはどう思われますか。単刀直入な言い方をすると『彼は、セクシーだと思いますか』あれって、今でもヒーローなんですか」
滝ふたばは、マスターの答えを待たず続けた。
「私はよく覚えていますよ。バラエティ番組にもよくでていた頃、観てましたもの。でも、私に言わせれば彼は、一文の値打ちもないゴミのような存在です」
滝ふたば、相手の嫌がる話題を蒸し返そうというのか。
マスターは、滝ふたばの失礼に苛立った。
「また、ドレミヒーローの名前が出るのですか」
しかし、滝ふたばの考えていることは、蒸し返しというわけではなかった。
滝ふたばの狙いは、違ったところにあった。
「ジーン博士というあだ名で呼ばれる少年の話を聞いたことがありますか」
滝ふたばがジーン少年のことを話題にすることには、不審な気持ちになった。
「ジーン博士なら、ゾンビテクノロジーの研究者の間では有名な天才少年です」
マスターは、答えた。
滝ふたばは、マスターの不審な気持ちなどは、気づいてもお構いなしだ。
「ジーン博士は、あの少年は、今後ゾンビテクノロジーが、パワースーツに取って代わるだろうと、はじめに予言したんですよ」
「ところが、ジーン博士は、とんでもない馬鹿げたことも言っているの」
「パワースーツ陣営が、ゾンビテクノロジーに対抗しようと考えるならば、ドレミヒーローという個人に着目すべきだってね」
「ドレミヒーロー! 」
「私は、それを聞いたときに何かの間違いだろうと考えました。最新技術の粋を集めたパワースーツの技術が、ドレミヒーロー一個人に劣るような言い方じゃありませんか。信じられます?」
「……」
マスターは、ジーン博士が、ゾンビテクノロジーの陣営に属していたので、ドレミヒーローを持ち上げるというのは、マスターにも理解できた。
一方、マスターは、落胆した。
「しかし、ジーン博士は、このような研究の機密事項を本当にライバル陣営の滝ふたばに漏らしたのだ。ジーン博士は、若さゆえの愚かさから、このような失敗を犯したのだろうか」
マスターの落胆は、滝ふたばにも確実に伝わった。
滝ふたばは、勝ち誇ったように言った。
「ジーン博士もジーン博士のお友達のカミーユも、家の娘の滝ケートには、何でもお話してくれるのですよ。あの二人はウチによくいらっしゃるの」
マスターは、ようやく、滝ふたばが繰り返す「セクシー」という言葉の意味がひとつ分かったような気がした。
マスターが、気づくと滝ふたばは、コーヒーパーラー「ライフ」の窓を通して外の様子を窺っている。
滝ふたばは、ため息をはき、つぶやいた。
「この世界は、結局はダメになってしまうのかしら……」