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剣術大会で、俺は順調に勝ち上がった。
次が決勝だ。
「しかし、まいったな。相手はウィリアムじゃないか」
決勝の相手はウィリアムだ。
なにを隠そう、我が兄のスキルは”剣聖”。
剣士としては最強クラスのスキルで、全ステータス増加と、剣技スキルの全使用可能というぶっ壊れ具合だ。
まともにやったらまず勝ち目がない。
「はっはっは! レイスよ! よく決勝までこれたな。褒めてやる。だが、お前は俺には勝てんぞ!」
ウィリアムがリングの中央で威勢よく言い放つ。
「たしかに、お前の剣の腕はたいしたものだ。だがな、”剣聖”のスキルの前では何の意味もない!」
会場は、決勝ということもあり、大盛り上がりだ。
客席には溢れんばかりの人が訪れている。
俺もリングに入る。
すると、客席に見慣れた顔があった。
「お父様……」
そこには、アルバスノット家、現当主のお父様の姿があった。
だが、こちらを一瞥することもなく、ウィリアムのほうだけを向いている。
「ウィリアム! どこの馬の骨ともわからん輩に思い知らせてやれ!」
「はい! お父様!」
どうやら、俺のことは完全に無視する気らしい。
「おい、レイス! 俺が勝ったら、あのソフィアという娘を寄越せ! お前にはもったいない!」
ウィリアムがとんでもないことを言い出す。
「……剣術大会で賭け事か? そんな条件飲むわけないだろ」
「はっはー! 負けることが確定しているから、飲めるわけないよな! 心配するな! お前が俺の一撃で気絶している間にソフィアは貰っておくぜ!」
「はあ……」
相変わらずのお調子っぷり。
どうやったらこんなバカが誕生するんだ。
『それでは、お互い、構え』
「くっくっく。一撃で葬ってやるぜ!」
『始め!』
「ほい。三秒金縛り」
審判が試合の開始を行ったのと同時に、スキルの効果範囲内に入って金縛りを使った。
俺はスッと近寄ってウィリアムの頭に木刀を叩きつけた。
「はい、お疲れーい」
ウィリアムは前のめりに倒れ、顔から地面に激突した。
決着だ。
『うおおお~っと! レイス選手、一撃で葬った~! 優勝はレイス選手です!』
「やったー! レイス~!」
ソフィアの声援が聞こえる。
俺は手を振って応えた。
お父様のほうを見ると、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。
「不正だ!」「インチキだ!」などと喚いているようだ。
リングサイドにいたミアは、ウィリアムのことを置いてさっさと退場している。
人を切り捨てる速さはさすがだ。
◇ ◇ ◇
俺は舞台に上がり、優勝賞金の受け取りをする。
『それでは、優勝賞金百万Gの贈呈です』
ふう。
これでソフィアのもとを離れずに済むな。
『と、いいたいところだが、この賞金は俺たちがいただくぜ』
「なっ!」
司会をしていた人間が、百万Gを持って走り去ろうとする。
「させるか! 三秒金縛り!」
逃げようとしていた男の体が固まる。
そいつの顔には見覚えがあった。
「お、お前は、バンじゃないか!」
賞金を盗もうとしていたのは、俺のことを奴隷商に売った盗賊団の頭、バンだった。