1 貴族からの追放
「なんてことだ……な、何かの間違いじゃないのか!」
お父様は驚愕の声を漏らした。
「アルバスノット様、間違いではありません。これがご子息のスキルです」
ここは領地の礼拝堂。
今は”スキル授与の儀”の真っ最中。
この国では十四歳になると、礼拝堂で神様からスキルを授かることができる。
スキルは一人一つで、スキルの内容でその人の一生が決まる。
”剣聖”のスキルならば優秀な剣士に、”魔導士”のスキルならば優秀な魔法使いに、という具合だ。
そして、今、俺に神様からスキルが授与された。
司祭様がふたたび俺のスキルを読み上げる。
「レイス・アルバスノットのスキルは、”金縛り”です」
それを聞いて、とうとうお父様はぶっ倒れた。
◇ ◇ ◇
「まったくなんたることだ! この一族の恥さらしめ!」
「申し訳ございません」
お父様から怒りの声が飛んでくる。
かつてないほどの怒りだ。
無理もない。
俺は名門アルバスノット家の次男として生まれ、幼少より英才教育を叩きこまれ、ゆくゆくはお父様のことを継ぐ器として育てられてきた。
これまで、それなりに優秀な成績を残し、お父様も満足されていた。
だが、人の一生はスキルの良し悪しで決まる。
”金縛り”などという、聞いたこともない一部のスキルマニアにしか受けないような地味で使えなさそうなスキルでは、当然家名を継ぐことなどできない。
「はあ……これで我が領地を継ぐのはお前の兄のウィリアムということになる。少々お調子乗りだが、仕方あるまい」
兄のウィリアム・アルバスノットは、少々素行に問題がある。
だが、スキルは”剣聖”。
なかなか珍しい。兄の剣士としての未来は約束されているようなものだ。
昔は俺のほうがウィリアムよりも剣術がうまかったが、スキル込みの勝負では敵わない。
「ああ、腹が立つ。もうよい! 部屋に戻っていろ! 追って厳しき沙汰あるものと思え!」
「はい……」
俺はとぼとぼと部屋に戻る。
その途中、兄のウィリアムの部屋から声が聞こえた。
「ウ、ウィリアム様いけません。私はレイスの許嫁です」
「いいじゃないか。どうせあいつは、もうじき勘当される。なにせ、スキルが”金縛り”だからな。はっはっは」
この声は、……ウィリアムとミアか。
ウィリアムとなにをしているんだ。
ミアは俺の婚約者で小さいころから仲良くしている女の子だ。
小柄で栗毛が可愛い、優しい性格の女の子だ。
「ああ……いけません。ああ、ああ」
「ははは。そう言ってても嫌がっていないじゃないか」
そこには俺の知っているミアはいなかった。
ただお互いの体をむさぼり合う獣が二匹いるだけ。
「そ、そんな……ミア……」
ミア、将来を約束し合っていたのに……。
スキルが”金縛り”だとわかった途端にこれか。
俺のことを好きだと言ってくれたあの優しいミアはどこに行ってしまったんだ。
怒りがこみ上げてくる。
怒鳴りこんでやろうかと思った。
だめだ……。
そんなことをしたって。
嫉妬で喚き散らしても、滑稽なだけ。
俺はドアの隙間から二人がまぐわう様子を見ていることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
二人が愛し合う姿を見たあと、とぼとぼと部屋に戻った。
しばらくすると、お父様が部屋に来て言い放つ。
「ほれ。小遣いをくれてやる。それを持ってこの家から出ていけ。ああ、アルバスノット家の名は捨ててもらうぞ。これからは赤の他人だ」
そのまま家を叩きだされ、俺は路頭に迷うことになってしまった。