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第1事件-1

※学園設定と行間を修正しました。

国公学園で学べるものは学力、武力に加え魔力。魔力については潜在能力のため、使えない人もこの国には多く存在している。

それこそ教師であっても魔力を使えない人はいるため、魔力については自由選択が可能なのだ。

学力と武力を総合した考査合計点と通常授業加点によって行われるクラス分けは、実力順とも言える。貴族も一般市民も関係なく分けられているのだが、やはり幼少期から家庭教師から授業を受けて居たり、親からの英才教育も含め、上位クラスには有名貴族が名を連ねていた。

学力順としているクラス分けには他にも意味があるそうで授業内容を合わせるためにも、同等の力を競わせる為にも有効と言うことらしい。


ルナはクラスに特段執着はないものの、1年のときからSクラスと呼ばれる学年10位以内が通うクラスから変わったことはなかった。周りの顔ぶれも見知ったもので、学年が変わった以外ほぼ変化がない。


「ルナが10位とは、意外だな。」


にこやかな笑みは爽やかで言葉に皮肉は見えない。ルナとよく話しているテトラ・シュミット伯爵子息だ。光によっては藍色に見える黒髪にすらりと長い足、いつも浮かんでいる笑顔と穏やかな黄土色の瞳は学園内でも一二を争う人気を誇る。


「努力が足りなかったわ。」

「そんなことないさ、どうせ勉強以外の雑学に傾倒でもしたのか。ザグレブ先生の授業、今回はやけに脱線が多かったし。」

「教科書以外のお話は面白いと思うけれど、テトラは脱線する時間が苦手かしら?」

「普段なら気にならないが、考査前はやめてほしい。」


ため息を吐く動作すら絵画のようだが、ルナからすれば美形は家で父や兄で見飽きているため何とも心が動かない。

彼女が面白いと思うのは教科書以外の先生方から零れた単語や雑学だった。

メモに残し、後からルナ自身が調べ糧とする。この方法は小さい頃、家庭教師時代から変わらない。

結果としては、考査範囲外の事例に時間がかかりいつもよりも落ちた順位となったが、ルナが得ている知識は膨大で、それらを全て記憶している事が凄いと周りからよく言われていた。


ルナは魔力が使える側の人間だ。当然、自由選択である魔力の講義も受講しており、考査前だとしても関係なく得た魔術を使ってみようと練習を遅くまで繰り返すほど。

学内順位について両親から小言を受けたことはない。ただ、兄二人もこのSクラスから動いたことがないため、自然にルナもここから落ちないように気は張っているため、もう少し優先順位は見定めなければならないだろう。


「ルナは歩く辞典よ。森羅万象知るつもり?」


年齢以上に甘く聞こえる声色は同じクラスのフェリス・メラン子爵令嬢。同年齢と思えない豊かな胸元に括れた腰、ブロンドの髪は動くたびにふわりとウェーブが揺れて、香ってくるローズなのかピーチなのか甘い香りはふと引寄せられてしまう。彼女へ体を向ければ、エメラルド色をした瞳がルナを見つめ返してくる。

メラン子爵夫人が社交界の蝶とされ、フェリスは社交界の華と呼ばれるほど才と美を持っていた。

ただし、武術のみ「傷が出来るのは嫌」と断るので0点だが、それでも成績はいつも9位、10位辺りを漂っているので彼女も相当、優秀な淑女なのだ。


「すべて知ることができれば面白いけど、知っていることから推測することも好きよ。現実主義だけじゃ楽しくないと思うもの。」

「あら、ルナからそう言われるなんて。真面目で気さくで優秀、まさに辺境伯ご令嬢様ね。」

「肩書きは父のもの、私自体は薄くて何も持ってなんかいないわよ。」

「ルナは立派よ、記憶力だけじゃなくって。もっと胸を張りなさい?」

「そうだぞ、このクラスにいる時点で誇れる。周りのためにも少しくらい調子に乗っていればいい。」

「ありがとう。そういえば興味もつことや集中できるものを見つけなさいと父から言われたばかりだったわ。自分を誇れる方法でも探してみようかしら。」

「そうね、堂々一位の殿下や、憧れの王子様と呼ばれるテトラのような異名をルナもつけましょう!」

「…変わり者令嬢、という異名なら持っているけど。」

「そんな無粋なものは却下よ。」

「見目だけで言えばルナも美人なのに、カップより剣を持ちたがるからな。」

「だって、カップを持ったところで自分の身は守れないでしょう?」

「そういうところよ。」

「そういうところだぞ。」


わいわいと話していれば予鈴が鳴る。

こうして友人と話す学園生活もルナにとっては十分、謳歌のひとつであった。



**********


「ルナ、ごめん。資材運ぶの少し手伝ってもらえるかしら?」

「いいわよ。遠いから今から出ないと。」

「良い裏道があるのよ!任せてちょうだい。」


フェリスが教員から頼まれた資料整理を手伝おうとしたのは、ただ手が空いたから。

しかし、廊下を進んでいるだけで、まさか生徒の倒れた姿を見つけるなど予想出来るわけがなかった。

しかも血の海の中に倒れこんだ姿を。


「き、きゃあああぁぁ!!」


フェリスの絶叫にハッとルナの意識が引き戻される。

働きを止めていた脳を無理矢理動かし、とりあえず気を失いかけているフェリスを後方に下げて、彼女の視界を隠すよう自分の上着をかけた。


「フェリスはここから動かないで。」

(あの声を聞いた他生徒か先生が来る。ならここは、一旦保護結界と目眩ましをかけておかないと)


多数の目に触れて気持ちいいものでもないだろう。周りから見えないよう、ルナが視覚結界をほどこした。

そして、最初に到着した足音に振り向けば語学教諭のサティが驚いた表情を浮かべている。彼女にフェリスのことを頼んだ。

サティは女性で、生徒とも年が近い若さのためあまり死体を見せるに適さないため保護結界を外すことはしない。

もし倒れている男子生徒を運ぶにしても魔力を使えないサティには、フェリスの介抱の方が向いている。


「何があったのですか?!」

「ソバ先生、カーマツ先生はこちらへ。」


遅れてやってきた男性教諭を保護結界内に誘導し、ピクリとも動かない男子生徒の姿を見せる。どちらも目を見開き、おろおろし出したためルナが冷静に言葉を発した。


「私とフェリスがここを通ったとき、既に倒れた状態でこのように血が流れていました。フェリスが叫んでも反応がなかったため、触れずに先生方を待ちました。他生徒の目に入らないよう、すぐに結界を施しています。」

「あ、あぁ。その、一体何、何が?」

「それは私たちにも理解できません。ただ、現にこの生徒はこうして命を奪われています。とにかく、こちらの生徒の特定とご家族への連絡を。外部犯であるならば被害拡大を避けるために、国公騎士団にも連絡を入れてください。」


いつか、国公騎士団第4隊副隊長を務める次兄のリオから言われたことがあったのだ。

何か不足の事態が起こったとき、第三者を介入させた方がいい。身内だけにすれば隠し通せることが生まれ真実に辿りつけなくなるから、と。

リオからの助言を忠実に守り、ルナが指示を出していく。ただの令嬢らしからぬその背中や手腕を、駆けつけた他の教師らも唖然として見ていた。


「ふむ…やけに冷静なものの考え方だ。…なるほど。」


細やかな呟きはこの喧騒の中、誰の耳にも届いていない。

口角を微かに上げ、眼鏡をあげ直した彼の姿に視線を投げる人物は居なかった。

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