1 ただの日常のはず
「自分の人生に不満はない。」
斉藤 優は何不自由なく高校を卒業し、大学に進学した。しかし、大学という自由に縛られ次第に勉強がおろそかになっていき大学は中退。大学時代からアルバイトしていたコンビニで働くフリーターとなり早3年が経過した。
アニメやゲームが趣味な彼は特に物欲はなく、金に困らず今の生活に満足していた。
「悪りぃけど10時までシフト延長できるか?」
店長の高木から頼まれた。22時から10時までお願いしたいとのことだ。コンビニなんてバイトの学生かパートがメインだから急なシフト変更なんてよくある話だ。その辺俺みたいなフリーターはシフトに柔軟に対応できるので重宝されるわけだ。
高木とはもう長い仲で、頼られることを嬉しく思っているあたり、手のひらでコロコロされているのだと恥ずかしながら感じている。
もちろん2つ返事で答えたが、1つだけ気がかりがあった。
普段は深夜シフトがメインだが、時々ヘルプで昼のシフトに入ることもある。その際大学生の咲《さき》ちゃんと何度か同じシフトになり仲良くなった。
咲ちゃんはいかにも今時の大学生というべきか、艶々の茶髪にゆるくパーマをかけたポニーテールで、性格もほわほわしたとても可憐な子である。(俺も3年前まで大学生だったはずなのに感性が年老いているのは承知の上だ。。。)
そんな咲ちゃんだが意外とインドア派で結構なゲーマーである。話題を誘う程度のつもりでオススメのゲームを聞いたときは、まるで取り憑かれたような饒舌さを見せ、やや引きかけたほどだ。(美人ほどメンヘラだったりするものだから彼女もきっと闇が深いのかもな。。。可愛いから別にいいけど。。)
まぁそれは心にそっと秘めておくとして、彼女が最近ハマっているというゲームを俺も購入したのだ。
今日はそのゲームが届く日。生粋のゲーマーである咲ちゃんがハマっているという事実と、それ以上に咲ちゃんとの話題を見つけたいとの思いで仕事が終わったら即やりこむ予定であった。
ゲームはまぁいつでも出来るとして、今回のシフト変更により咲ちゃんと同じシフトになるのは先になってしまい少し寂しい気持ちがあった。
仕事を終えた俺は速やかに帰路に着いた。
寂れたアパートの1室にはAmozanの封筒が投函されていた。すぐにでも布団に吸い込まれそうな衝動に駆られながら封筒とともに部屋に入る。
封筒の中には咲ちゃんに薦められたゲームソフトが入っているはずだ。中身を確認ぐらいはしようと思ったが、瞼が瞳を遮ろうとしてくるため1度寝てからゆっくり見ることにした。
そういえば枕元に写真を置いて寝ると夢で逢えるという話がある。眉唾だと思うし、ゲームソフトでも良いのかは謎だが、もしかしたら咲ちゃんと夢でゲームできるかもしれない!せっかくだしやってみることにしよう。
まだ開けていない封筒を枕元に置き、布団に入る。すーっと力が抜けるように瞼が視界を遮っていった。
(良い夢が見られますように)
ん?なにか体にかかる重力が少ない。さらに首から下にかけてしっとりと温かみが感じられる。どうやらお湯に浸かっている!?
一体何が起こっているのだ!?
混乱しながら辺りを見回すと俺は今浴場にいて、他に誰もいないことが分かった。
何がどうしてこの状況なのか分からないが、とりあえず誰もいないことに安堵したのも束の間、浴場の扉が開いた。
「ヽ(;゜;Д;゜;; )キャァァァーー」
けたたましく鳴り響く声の元に目を向けると、なんと咲ちゃんとそっくりな女の子が頬を赤らめ、目を見開きこちらを睨んでいる。
思わず咲ちゃん!?と声を出した刹那、
「誰よアンタ!!?」
の問いかけとともに振りかぶった彼女の右手の平が俺の左頬を轟かせた。
「痛ったぁあ!!!」
痛みを中和させるが如く、みぞおちから絞り出すように声を発して目を見開くと、そこには見覚えのある薄暗い天井があった。
辺りを見回すと間違いなく自分の部屋である。ふと気付くと左頬に俺の左手の平があり、その手の平に潰れている蚊を見つけた。
どうやら蚊が頬に止まった際に無意識に左頬を叩いたのだと思われる。
どうやら夢を見ていたようだとすぐに分かった。それにしても夢の中でも頬を叩かれたような気がしたが、なぜ状況が重なったのだろうか。そんなことを朧気に考えようとしたがまだまだ眠気が元気いっぱいだ。
何も考えずにもう一度瞼を下ろした。
瞼が持ち上がると、そこには鬱蒼とした森の中に軽自動車1台分ほどの幅の踏み固まった一本道がある。爽やかな風が頬を優しく撫でる。どうやらその道の上に俺は立っていた。




