秘密 2(夢の中のらっく、回想)
らっくは言いえない程の安心感に包まれ、眠っている。
『おい、飯だぞ、らっく』
『にぃ』
『美味いか?』
『にぃ!』
五十を過ぎて独り身になった辰巳。仕事帰り、家の近くの公園に通りかかると、子供達が輪になってしゃがみこんでいた。
『ねぇ、お腹空いてるんじゃない?わたしコンビニで、牛乳買ってくる』
『捨て猫かなぁ?』
『首輪とか、なんもないね』
『小さいし、野良猫が産んだのかも』
『買ってきたよ!』
子供達は、ゴミ箱から拾ってきたうどんのカップに、買ったばかりの牛乳を注ごうとしている。
『おい、ガキ共』
『ひぃっ!な、なんだよおじさん!ぼくたち、なんも悪いことしてないよ』
『そうじゃねぇ。そんな子猫に、冷えた牛乳なんか飲ませたら、腹こわすぞ』
『そうなの?』
『おじさん、猫に詳しいの?』
『この子、可哀想だよ。おじさん、どうしたらいい?』
『っちっ、めんどくせぇなぁ……ここで待ってろ』
辰巳はホームセンターへ行き、猫用のミルクを買うと、公園に戻った。
『おい、そいつ連れて付いてこい』
ビニール袋をさげ、スタスタと歩いていく辰巳。
『どうする?』
『知らない人について行っちゃダメって、お母さん言ってたよ?』
『でも、この子、ほっといたら死んじゃうよ』
『じ、じゃあ、すぐ逃げれるように、少し離れてついて行こうか』
『うん』
辰巳の家は、公園から十メートルも離れていなかった。辰巳が家に入り、なにやらゴソゴソと音を立てている様子を 子供達は玄関の外から覗き込む。
しばらくして、辰巳は人肌に温めた猫用ミルクを持って、玄関先に出て来た。
『ほら、これならいいだろ』
辰巳は玄関脇にミルクを置くと、バタンと扉を閉め、屋内へ入ってしまった。
子供達は、恐る恐る子猫をミルクの前に降ろす。
(スンスン……ぺろっ……ぴちゃぴちゃ……)
『あ、飲んでる飲んでる』
『やっぱりお腹空いてたんだよ』
『すごい勢いだね』
それから一時間程たって、
『コンコン』
『んぁ?まだ何か用か?』
『おじさん、その……ありがとう。たまに遊びに来ていい?』
『はぁ?』
『だって、おじさんがこの子、飼ってくれるんでしょ?また顔見に来るね』
『なんでそういう話になるんだ』
『違うの?』
『俺は一人暮らしで、仕事で家に居ない事が多い。その間、こいつの面倒誰が見るんだよ?』
『そっかぁ……どうする?』
『うちはマンションだから、ペット禁止』
『うちはお母さんが猫アレルギーだから』
『うちもダメだ』
『ねぇ、おじさん、なんとかならない?』
『ちっ、尽くめんどくせぇなぁ……ガキ共、家は近所か?』
『うん』
『じゃあよ、俺が会社のヤツらに、飼ってくれるのが居ねぇか、声かけてやる。飼い主が見つかるまでの間、俺が留守ん時は、おめぇらで面倒見ろ。出来るか?』
『どうする?』
『朝は学校行く前にごはんあげて、学校終わったらダッシュでここに』
『みんなで当番決める?』
『それなら出来るかな?』
『わたし塾の日はムリかも』
『じゃあ、用事がある時は、ちゃんと誰かに代わってもらうのは?』
『そうだね。出来るかも』
『やるよ!おじさん!』
『そうか。んじゃ、なんかあったら紙に書いて、ポストに入れとけ』
『うん!わかった』
結果、飼い主は見つからず、情が移った辰巳は、なし崩し的に子猫を飼うことになる。子供達も進級するに連れ、顔を出さなくなって行く。
辰巳は仕方なく会社に連れて行き、仕事中は事務の女性に世話をしてもらった。いつしかそれは、辰巳の日常になるのだった。
次回投稿は、17日の予定です。