それぞれの旅立ち
「行くのか?」
「あぁ」
ラキュオスの心は、既に神国へと向かっているらしい。マリーの店の前で、別れの挨拶をしているところである。
「まどか達はどうする?」
「多分行くことになるだろうが、色々片付けてからだな」
「そうか。ではまた」
「またな」
実にあっさりと歩き出すラキュオス。振り返ることなく人混みに消えて行く。
「行っちゃったにぃ……」
「あいつにはあいつの、旅の目的があるからな。心配すんならっく、また会えるよ」
そう言って頭を撫でながら振り返ると、ゼロノスが立っている。何か言いたそうだが、言い出すタイミングが掴めないようだ。
「ゼロノス、お前はアイザック王に仕えるんだろ?」
「っ!い、いいのか?」
「何が?」
「まどかは俺に名を与えた。俺はまどかに忠誠を……」
「あのなぁゼロノス、忠誠ってのは魂の繋がりだ。お前、自分が正気に戻った時、何て名乗りを上げたか覚えてる?」
「わ、私は王国近衛騎士、ゼロノス=ヴァンシュタイン……あ!」
「そういうこと。どうしても私が気になるんなら、今ここで命令してやるよ。ゼロノス、お前はこの国に残り、王を守れ!」
「イエスマム!」
胸に拳を当て、騎士の最敬礼で応えるゼロノス。マムと言われ、若干引き攣るまどか。まぁ名付け親な訳だから、マム……なのかな?と、困惑している。
「じゃ、じゃあな。頑張れよ!」
街中で騎士に最敬礼される少女に、周りの視線が痛い。まどか達はそそくさとその場を立ち去った。
それから向かったのは、王都ギルドである。執務室には、狐マスターと、ファーの狸マスターが揃っていた。
「あれ?なんでファーのギルマスが?」
「おぉ!まどか、無事だったか!いやな、ネム爺が、まどか達がとっ捕まった一件を調べてたんだが、暗部と出会してよ、どういう訳か、協力する事になっちまって、もう何がなんだか……」
「そろそろ来る頃だと思ってましたよ、まどか。この国を救ってくれてありがとう」
「はぁ……やっぱりか。ギルマス!あんた暗部と繋がってたんだな」
「なんの事やら……」
「やい、狐野郎!てめぇまさかまどか嬢ちゃんを利用して……」
「貴方もそろそろファーへお帰りなさい」
「誤魔化す気かこの野郎!」
「利用……とは少し違いますね。託したのですよ。まどかならば王国の闇に気付き、暴いてくれるだろうとね」
「へぇー。じゃあこの一件、ギルマスからの指名依頼って事でいいんだよね?」
「やれやれ、そういうところですよまどか。何処ぞの狸と違って、貴女は抜け目ない。良いでしょう。報酬ははずみますよ」
「だったらその報酬、国の為に使ってよ。帝国への賠償責任とか、色々大変そうだし。その一部をギルドが肩代わりする……ってどう?」
「まどかなら、そう言ってくれるだろうと思ってましたよ。ですが私も、最初から支払う気が無かったと思われては、面目が立ちません。報酬はお支払い致します。そして、国への肩代わりも、させていただきますよ」
「太っ腹だな」
「それほどの事をやってのけたのですよ。当然です」
「ありがとう。路銀の足しにするよ」
「ってことは、まどか、旅立つのですか?」
「あぁ。数日中には」
「なんだよ冷てぇなぁ!ファーに来いよ、まどか」
「あんた最初にあった時、さっさと出て行けって言わなかったか?」
「そ、そんなこと言ったか?なんかの間違いだ、間違い」
「あははっ!ごめん。私を待ってる奴がいるんでな。このまま行くよ」
「そうか。また来いよ!」
「あぁ、約束する」




