夢の国
まどかの話を聞き、項垂れるアイザック。とても実現可能には思えなかった。アイザックの気持ちを察し、質問を重ねるザクトール。
「まどか殿と申したか、貴殿の話は、とても夢物語とは思えぬ。まるで実際そのような国が存在するかのような話じゃが?」
「それはお答え出来ません。私もこの世界を全て見て回ったわけではないので。そのような国があるのかもしれないし、無いのかもしれない。
しかし、今この国で成そうとしても、五年や十年では無理でしょう。それに気付いたからこそ、陛下は項垂れておいでなのです」
まどかは、自分の話を聞くアイザックが、ただのチャラいお調子者では無いと見抜いた。ただ若さゆえか、余りにも理想論に過ぎるのだ。
「ザクトール、まどか殿の言う通りだよ。王族はおろか、貴族まで廃するなどと宣言したところで、誰が素直に従うものか……必ずや内乱が起こる」
「そうですね。仮に内乱が起きなかったとしても、貴族であった者が、選民思想を捨てきれるとは、とても思えない。だからこそ先王も、理想論だと仰ったのでしょう」
「で、では、そのような貴族は我ら暗部が……」
更に言い募るザクトール。
「こちらから内乱を起こすつもりですか?国が荒れて一番不幸になるのは民なのですよ?陛下がそれを望むとでも?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「まどか殿、僕はどうしたら……」
「急がない事です。幸い陛下はお若い。二十年くらいかければ、理想に近付けると思いますよ」
「二十年か……よし、まずは何をすればいい」
「そうですねぇ、まずはしっかり公の場で王位継承し、臣下や民の信用を得なければなりません。それが磐石になったならば、民の意見を聞く場を設ける。貴族の選民思想を無くす。この辺りから始められてはいかがでしょう?」
そこまで言ってまどかは、ハッと気付いた。獣人を受け入れたり、貴族以外の優れた者を集め、研究施設を設けたのも、先王が成した、理想に近付く第一歩だったのではないかと。
(生きてるうちに会いたかったな……)
「俺からも、いいか?」
今まで口を開かなかったラキュオスが、手を上げる。早々に神国と言われるところへ旅立つと思っていたが、正直ここまでついてくるとは……
「旅立つ前に、アシムという者について、私が聞いた話を報告すべきだと思ってな」
ラキュオスは端的に話した。やはり先王が民主化を考えていた事にアシムは気付き、王政存続の為に暗殺という強硬手段に出たようだ。
アイザックも亡きものにしようとしたが、その前にザクトールによって保護された。そこでアシムは傀儡の王を用意し、隠し子であるという話をでっち上げると、貴族院を抱き込み、王位継承を成した。そういうことらしい。
「陛下、これは一刻も早く王位継承を成し、この件に関わった貴族共の粛清をせねばなりますまい」
暗部も凡その調査はしていたが、今裏付けが取れた。ザクトールのところには、既に関わった貴族の名簿は届いているようだ。
「そうだね。僕も覚悟を決めるよ!」
アイザックの言う覚悟とは、今回の件を国民に詳らかにする事。だがそれによって、賠償責任を負うことになるが、それを税によって賄う事を極力避ける。という事である。
「国としての責任を 民に押し付けるような真似は出来ないからね!」
そこにはもう、チャラい青年の姿は無い。民を導く王としての、覚悟と風格が確かにあった。




