茶会の席
王と呼ぶには風格が無く、軟質な雰囲気さえあるアイザック。ぶっちゃけチャラい。とても国のトップという重責に耐えうる人物には見えなかった。
(大丈夫かな……血筋だけでは、この国を立て直せるとは思えないが……すぐ取り込まれて傀儡の王になりそうだけど)
まどか達は、王の御前という緊張感よりも、不安しかないこの国の行く末を案じ、茶を楽しむどころでは無い。今も給仕をし、茶菓子を取り分ける王に、苦笑いをするしかなかった。
「あ、この木の実を練りこんだクッキー、美味しいよ!」
「は、はぁ……」
「陛下、御着座くださいませ。陛下が動かれては、お話が進みませぬ」
「あ!それもそうだね、あははっ!」
もはやため息しか出ない。ザクトールも頭を抱えている。
「さーてと。それじゃ結論から話すね。僕はこの国の、王政制度を撤廃しようと思うんだ」
アイザックはいきなりぶっちゃけた。まどかは厳しい目をする。他の仲間も同じ考えに至ったらしい。即ち、コイツ逃げる気か?と。
「僕はね、国を一人の権力者が動かすべきでは無いと思うんだ」
「……と仰いますと?」
「うん。一人の権力者が国を動かしているって事は、その一人をどうにかすれば、国はどうとでもなる……と思はない?」
「傀儡ですか?或いは欲を刺激して懐柔、若しくは暗殺……」
「そうだね。現にアシムはそうして乗っ取りを計った。貴女達が止めてくれなかったら、この国はどうなっていたか……」
「私達は何も……」
「それだけじゃないよ。権力者が間違った方向に向かえば、誰も止められない。それを正そうとする者も、権力に潰される……だろ?」
「暴君、独裁か……」
「じゃあ、その権力者が大勢居たらどうだろう?それぞれの意見を持ち寄り、話し合い決定する。お互いがお互いを監視し、独裁を許さないようにする。
それが、父王が目指した国作りだから……というのもあるんだけどね。少なくとも、他国の付け入る隙を無くし、間違いを正せる国になると思うんだけど」
「その大勢の権力者とは?貴族院に任せるとでも?」
「そこなんだ。暗部に調査して貰ったんだけど、今の貴族達では王政と変わらない、寧ろ私利私欲に走る者で溢れていて、民が苦しむのは目に見えているらしい。そこで、貴女達に率直な意見を聞きたい。国を動かす力を 誰に与えるべきか」
一同は唸る。一介の冒険者に政治の意見を聞くなど、どだい無理な話である。だがそこで敢えてまどかは口を開いた。
「その考え、本当に前王の?」
「そうだよ。父王は理想論だと笑っていたが、いつも僕に嬉嬉として語っていたよ」
「はぁ……まさかこの世界で、しかも王族の身で民主主義の一端を語る者がいたとは……」
「み、みんしゅう?なんだ、それは?」
さすがにまどかも思案する。最近誰にでもぶっちゃけるまどかだが、それはこの世界に来てからの話である。元の世界の話、特に思想や政治形態など、こちらの世界に持ち込むべきか迷ったのだ。
(まぁ、今更か……)
「これから話すお伽話は、この世界の話では無い。こことは違う夢の世界の話です。だから色々詮索はしないで欲しい。あくまでお伽話として聞いてください」
「よく分からんが、わかった」
「民主主義、それはつまり、民が国の主である。という考え方です。その世界は、王や貴族は無く、国の民は皆平等というのが、基本の思想なのです」




