ご注文は○○ですか
「私は、王国近衛騎士、ゼロノス=ヴァンシュタイン。マリーに取り次いでくれ」
「かしこまりました。在庫を確認致しますので、そちらにかけてお待ちください」
さすがに「あるよ」は聞けなかったが、在庫確認と返ってきた。まどかのテンションはうなぎ登り。対して他の仲間達は、不思議なモノを見る目である。メグミまで首を傾げている。たぶんあのドラマを見てなかったのだろう。
ただ一人、ラキュオスだけは「うむ」と唸っている。まさかこのネタ、知っているのか?とまどかは思ったが、違うようだ。
「王都五番街……マリー……雑貨商、まさか」
「おや?旦那、久しぶりじゃないか。会いに来てくれたのかい?」
奥から色香漂う女性が出てくる。
「ラキュオス、マリーを知っているのか?」
「あぁ。知っていると言うか、思い出した。あの時は世話になった」
女性に頭を下げるラキュオス。どうやらこの女性がマリーらしい。
「帝国の鉱山の街に立ち寄った時だ。らっくとはそこで出会ったのだが、その時らっくは服を着ていなくてな。そのまま連れ歩く訳にもいかず……彼女が用立ててくれたのだ」
「にゅ?」
らっくは覚えていないらしい。だがスンスンと匂いを嗅ぐと、
「あ、あの時の危ない人だにぃ」
「こら、らっく、お世話になった人だぞ!」
「あの時と同じ、やっぱり血の匂いがするにぃ」
突如ザワっと緊張感が走る!らっくの目は獣のそれとなり、威嚇を始めた。
「らっく、お利口さんにしろ」
頭をぽふぽふと撫で、首を擽るまどか。らっくも堪らずふにゃりとなる。
「うむ。察するに、貴女は雑貨商……に扮した、国の暗部、ってところかな?」
まどかの指摘に、さすがのマリーも色香の中に殺気が混ざる。
「おっかない顔しないで、美人が台無しだよ」
マリーは両手を上げ、降参のポーズをとった。
「まったく、なんて人達なんだろうね。ゼロノス、あんたとんでもないモンを招き入れたわね?」
「私の命の恩人だ。信用も出来る」
「あんたがそこまで言うなら……私はお嬢ちゃんの言う通り、国王直轄諜報機関、マリーよ」
「私は冒険者のまどか。こっちがメグミで、ハンス。ジョーカーに、チェリーとコバルト。らっくは知ってるのよね?」
「おや?その子は旦那の連れじゃなかったのかい?」
「あぁ、うちの子だ。はぐれていたのを ラキュオスが連れて来てくれた」
「へぇ。世の中狭いもんだね。それにしても、魔剣士に聖女様か……いいだろ。同行を許可しよう」
マリーの案内で、店の奥へと入る一行。扉を開けるとそこは、整備された中庭があった。中央の東屋で、優雅に茶を楽しむ老人と、カップに茶を注ぐ青年。
「お連れ致しました。陛下」
ニコリと微笑む老人。慈しみに溢れている。
「やぁ!僕が、先王アーネスト=ルシウス三世の嫡子、アイザックだよ」
屈託のない笑顔で人数分の茶を注ぐ青年が、明るく挨拶した。まどか達は思わず口を揃え、
「「「そっちかよ!」」」
と総ツッコミを入れてしまった。
「あははっ!やっぱりそう思った?このお爺さんはザクトール。暗部の首領だよ。僕にとっては親も同然。僕をここまで育ててくれたんだ」
「陛下、勿体なきお言葉。ザクトールと申す。以後お見知り置きを」
好々爺然としているが、見るものが見ればわかる。冒険者ランクで言えばBに届くか届かないかくらいであろう。
「せっかくだし、お茶でも飲みながら話そうか」
勧められるまま一行は、席に着いた。




