器と魂
「ぬおぉぉっ!」
ゼロは両手を組み、大上段から打ち下ろす!
アシムの頭蓋は砕け、首が胴にめり込み、そのまま地面に押し潰された!
「フゥ、フゥ……王国はおろか、世界に害を成す狂人め、王国近衛騎士、ゼロノス=ヴァンシュタインが討ち取った!」
『あぁ、やっぱりそうなっちゃうか』
『所詮アシム、世界の上に立つ器じゃないわん』
はるか離れた上空に、パタパタと羽根を動かす二人組。羽ばたく必要は無いのだが、本人達曰く「この方が可愛いでしょ」らしい。
『もう終わりっぽいし、帰りましょ?カッツェ』
『そうねぇ、ドルバーナ。アニマもいるし、私達は退散ね』
仁王像に灰銀の翼を付けたような二人は、可愛いくパタパタさせながら、彼方へと飛び去った。
「ほう。名付けの上書きか。よく知っていたな」
アニマが新しい玩具を見つけたように、まどかを見つめる。
「上書きって程ではない。元の名に戻っただけだ。名付けの本質は、魂の繋がりだろ?ゼロにその気が無いのに、魂を繋ぐのは無理があると思ったんだよ」
「真理だな」
「で?お前はどうする?」
「そうさなぁ、ここはもう飽きたし、一度主神の元へ帰るか」
「黙って帰すと思うか?」
「慌てるなよ。ラキュオス、お前は我らが主神に覲たいのだろ?ならば神国へ行け」
「神国?エレファス聖教国か!」
「そうだ。そこの娘も来るがいい。その時はゆっくり相手をしてやろう」
それだけ言い残すと、アニマは国王の身体から抜け出る。目や鼻、口からドロリと出るどす黒い物体は、なかなかグロい。
「逃がすか!」
ラキュオスの斬撃と、まどかの拳が同時に黒い物体を打つ!だが部分的に弾けただけで、また一つにまとまり飛び去ってしまった。
こうして、王国軍による帝国討伐戦は、一応の終息を迎えた。
死に至らなかった者は、王国帝国関係なく、まどかが回復した。アニマの【王権】も既に解除されており、兵達もなぜ自分達は戦っていたのか、思い出せない状態であったのだ。
ジャンが死者も死霊術で黄泉がえりを……などと言っていたが、丁重にお断りした。
輪廻の女神の使徒であるまどかは、実は死者蘇生の術が使えないわけではない。だがまどかは、敢えて行わなかった。
それは、この世界の人々に戒めとして、戦争とは昨日までの隣人が、或いは自分が、家族が、死ぬことであると伝えたいのかもしれない。
国家間の戦後賠償問題など、まどかの知るところでは無い。だが、
「そう言えば王国って、王様居ないんだっけ」
という一言で、皆が頭を抱えた。なにしろ先代の王は暗殺され、現代の王は作り物。首謀者のアシムはミンチになり、貴族院も当てにならない。責任を問う相手が居ないのだ。
「まどか、合わせたい人が居る」
その混乱の中、ゼロ改めゼロノスが、親に恋人を紹介するような台詞を吐いた。事情を聞き、まどか達はさっさと王都へ向かった。ようは逃げたのである。
まどか達が連れてこられたのは、王都五番街にある雑貨商。今となっては少し哀愁すら感じる、王家御用達の文字が書かれている。
「いらっしゃいませ旅の方。何をお探しですか?当方に無いものは御座いませんよ」
キターッ!とまどかは心の中で叫ぶ。お約束のように、無茶な注文をしても「あるよ」とカウンターの下から取り出す渋めのマスター。どんな意地悪な注文を言ってやろうか……などと妄想していると、ゼロノスがとんでもない事を言った。
「国王を」




