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「無粋ですね。排除しましょう」

「「かしこまりました」」


ジョーカーの術に、チェリーとコバルトが同じ術を重ねる。


「「「三位一体術式(トリニティスペル)恐怖の雨(テラーレイン)」」」


丘の上に降り注ぐ雨。傍目にはただの雨である。日常であれば傘すらささぬ程度の。

ただ雨に濡れた弓兵達は、一人、また一人と叫び声を上げる。

ある者は肌を掻き毟り、ある者は足元を警戒しながら怯えている。背後を頻りに振り返る者、頭を抱え蹲る者、人それぞれである。

この雨が齎すものは、その名の通り恐怖。それぞれが現実とも幻覚ともわからぬ中で、身体中を虫が這い、地面から湧き出る手に掴まれ、引きずり込まれ、頭に声が響き、足音が近付き、首を絞められ……

あらゆる恐怖に苛まれるのだ。




まどかが戻り、使徒の情報を共有した時、ジョーカー達三人は怒りが込み上げた。

元は魔族である三人、精神攻撃など息をするような児戯である。

その程度の事を得意とする者が、主と崇めるまどかと同等の存在であるなど、とても許せる事では無かった。


つまるところ、今の術式は、相手の使徒に対する挑発であった。この程度、我等でも容易に出来る。お前などまどかお嬢様の足元にも及ばぬ存在である……と、そう言っているのだ。


『メグミお嬢様、射手とはこういう者だと、お手本を見せて差し上げてくださいませ』


『わかったわ、ジョーカーさん』


メグミは弓を構え、天を仰ぐ。その洗練されたイメージは周囲に広がり、この場に居る者に、満天の星空を幻視させる。


「スターダストレイン!」


放たれた矢は天へ届き、無数の流星となって王国兵に降り注ぐ!

その尽くが撃ち抜かれ、倒れ伏す王国軍。そして丘の上には……


「もう小細工は通用しないぞアシム」

「アニマと言ったか、もう少し話を聞かせてもらうぞ」


ゼロとラキュオスが立っていた。




「なるほど。余興としては中々に楽しめたぞ」


アニマは薄く笑う。


「私が手を出せば、一瞬で終わってしまうからな。ラキュオス、なんなりと聞くがいい。そっちのゴーレムはアシムに用か。好きにしろ」


好きにしろと言われ、狼狽えるアシム。もはやこの場から一刻も早く逃げ出さねばならない。幸い奥の手ならある。それに漢女二人が物見遊山で近くまで来ているはずである。


(まだ焦る時では無いな。そうだ、まだ立て直せる)


「お前の所業、人が手を出してはならぬ領域だ」


ジリジリと間を詰めるゼロ。アシムは冷静を装う。


「ゼロ、お前を作ったのは私だ。そんな私が、なんの対策も打たずに、お前を野に放つと思うか?」


ピタリと足を止めるゼロ。


「私はお前に無敵の身体を与え、力を与え、名を与えた。この意味がわかるか?名を与えるという行為は、より強大な力を得る代わりに、名を与えた者に対して、絶対の服従を誓う契約なのだよ」


「なん、だと?」


「お前は私には逆らえない!ゼロ!よく戻ってきたな。私を守れ!」


アシムの言葉を聞いた途端、ゼロの動きが変わる。機械的な動きでアシムの後ろに着き、まどか達を睨むように見下ろす。


「なるほどなぁ。やっぱりそうきたかぁ」


まどかは気付いていたらしい。ジョーカー達魔族に請われ、名付けを行ったのは、他ならぬまどかなのだ。名付けの意味を知らぬ筈が無かった。


「形勢逆転だ!」


高らかに言い放つアシム。まどかは小馬鹿にしたように笑う。


「いいのか?そんな奴が主で。ゼロ……いや、王国近衛騎士ゼロノス=ヴァンシュタイン!」

次回投稿は

11月2日am8:00に予定しています。

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