秘密 1
基地へと戻りながら、まどかは自己紹介する。
「私は旅の冒険者、まどか。」
「まどか?……あんたがそうか。なるほど」
「知ってるの?」
「あぁ。私もツインホークスの冒険者だ。ラキュオスと言う。ガルに聞いてはいたが、本当に女の子なんだな……しかも強い」
「ま、まぁ、私は……ちょっと特殊だからな。もしかして、貴方がもう一人のランクBなの?」
「そうだな。そういうことになってる」
「ん?違うの?」
「私は職業に魔剣士を選んだ。それはつまり、自動的にランクBということだ」
「あぁ、ガルが言ってた。私も魔闘士を選んだ時にランクBだった」
「その時聞かなかったか?ギルドの職業選択は、今のレベルでなれる職業の他に、今後なれる可能性がある職業も、選択肢に選ばれると」
「そんなこと言ってたかも」
「つまり私は、言うなれば背伸びして無理矢理魔剣士になったんだ。実力が伴ってないんだよ」
「そうかなぁ……さっき輩の背後に、気配なく近付いた足捌きは、達人のそれだと思ったけど」
「あれは……師匠に教わった。私は、実力不足を補う為に、とある剣士に教えを乞うた。その人は、私なんかが到底及ばない剣士だ。だが、その師匠にも、越えられない壁があると聞かされた」
「そうか……良かったな」
「良かった?何がだ」
ラキュオスは目を細めて、まどかを睨む。
「それって、まだまだ伸び代があるってことじゃない?」
「あ!」
「貴方は、強さを求めてるの?何の為に?」
ラキュオスは、少し考えるような仕草をする。
「あえて言うなら、敵討ちかな」
「……そうか」
まどかは寂しそうな表情を浮かべる。それは、帝都での事件、怨みにかられた男が力を求め、魔人となり国家転覆を目論んだ。そのおぞましい姿と、招いた惨劇を まどかは思い浮かべたからだ。
僅かな時間だったが、まどかはラキュオスにその顔を見られたのを悟り、話題を変えた。
「あ、そう言えば、らっく……だったか?貴方の仲間」
「ん?あぁ、仲間と言う訳では無いんだ。旅の途中で知り合い、あいつが主を探す間、同行している。ここに来たのも、獣人の多い国ならば、あいつの顔見知りでも居ないか?と思ってな」
「そうか」
「だがな……今思えば、あいつは、親兄弟を探しているのでは無い。ご主人様と言ったのだ。その辺は引っかかっているんだけどな」
「ほ、他に何か、言わなかったか?」
「そうだな……俄に信じられない話だが、あいつは元々、猫だったと言うのだ。主に会いたい一心で祈っていたら、人化したのだと」
「なっ!」
「まぁ、普通は驚くよな。その主は、タッチャンと言うらしいが、あまり聞かぬ名だ。ここいらの国の者では無いかもしれん」
(間違いない!らっくだ!俺の飼っていた猫だ。だがどうする?今の俺はまどかだぞ。性別まで変わっている。しかもそのことはウチのメンバーも知らない。
このまま他人としてやり過ごすか?それも可哀想か……らっくも何か気付いているようだし……だが、もしそれが明るみになったとしたら?メグミやハンスはどうする?どうしたらいい!)
「どうかしたか?」
「あ、いや、なんでもない」
「どう思う?あいつの話」
「どう……だろうなぁ……あ、いや、さっぱりわからん……ゆ、夢でも見たのでは無いか?」
「ふむ……」
混乱するまどか。違和感を感じるラキュオス。運命の歯車は、音もなく回り続けるのだった。
次回投稿は、15日の予定です。