ゼロの正体
まどかがゼロと転移したのは、水晶の森の古城だった。
漂っていた霞は晴れ、魔物の姿も無い。どうやら封印術が施され、魔物も近付けないようだ。
門の両脇には、無力化されたガーディアンゴーレムが倒れている。何者かが侵入したらしい。
まどかはここで、ゼロを爆破するつもりであったが、侵入者が居るとわかった以上、巻き込む訳にはいかなくなった。
そこで思い付いたのが、次元魔術の応用である。簡単に言えば、次元の狭間を介し、ゼロの体内から魔核を抜き取り、そのまま魔核を異次元に放逐しようと言うのだ。
簡単な作業では無い。が時間をかけている暇も無い。侵入者を巻き込まぬ為とはいえ、その者がこちらの敵である可能性もあるのだ。まどかは躊躇わず、この次元手術を行った。
チャンスは一瞬。手を入れた瞬間にゼロが暴れれば、自分の手が次元切断されてしまうのだ。
ゼロが大技を放った直後、技後硬直の瞬間を狙う!
結果は成功。だがゼロの技を完全回避せず、最小の動きで術を行使した為、まどかも少なからずダメージを負った。
魔核を抜かれたゼロは力を失い、オリハルコンの身体を支えられずに倒れた。ダメージを回復するまどかに、声が掛けられる。
「お前が、やったのか?」
それはゼロの声。驚くまどかに、ゼロは言葉を続ける。
「魔核を抜いたのだろう?どうやらそのせいで、私に施されていた記憶の封印も解かれたようだ」
「そうか」
短く返すまどかに、ゼロは過去を語る。
「私は王国近衛騎士だった。ある日国王が狩猟に出かけることになり、私は護衛を仰せつかった。だが力及ばす、魔物の襲撃により私は倒れた。
次に目覚めた時には、既に私の身体はゴーレムになっていた。身動きの出来ぬ棺のような物の中で、何かの液体に浸され、様々な術が掛けられた。
だが、その最中聞こえたのだ。魔物の襲撃は、アシムの仕業であったと」
「ほう。それで?」
「アシムはファルカンという者を潜り込ませる為に、魔物を嗾け、ファルカンに排除させた。自作自演というやつだ。ファルカンが団長職に任ぜられた時、アシムは行動を起こした。国王の暗殺だ。
ファルカンを使い国王を暗殺、次代の王にアシムが作ったゴーレムを据えた。これで実質、王国はアシムのものとなったのだ。
アシムの真の目的は、この世界を牛耳る事。しかも自分が表に立たずにだ!私は奴を止めたい……そう思った時、記憶は封印された。記憶は戻ったが、もはやその願いも叶わぬか……いや、止めねばならぬ!お前の力ならば或いは……託されてはくれぬか?」
まどかはすげなく答える。
「自分でやれよ」
そう言うと悪戯な笑みを浮かべ、ガーディアンゴーレムに近付き、その胸を貫く!そこから取り出されたのは魔核であった。
暫し手の中で弄ぶと、ゼロに近寄る。
「こいつの術式は解呪した。止めたいんだろ?」
そう言うと、再び次元手術を施し、魔核をゼロの胸に埋め込む。ついでに異次元に放逐したマナの一部を 魔核に流し込んだ。
「暴走する程のマナはダメだが、これくらいならば意志の力で抑えられるだろ?」
ゼロは身体に巡るマナを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。その目には曇り無き意思が宿り、嘗ての近衛騎士としての誇りを取り戻す!
「あぁ。問題ない。感謝する!」
「んじゃ、私の回復も終わったし、さっさとそのアシムって奴を ぶっ飛ばしに行くか!」
「そいつを倒したところで、事は収まらんぞ、まどか」




