斜め上
死兵。文字通りのそれであった。
かなりの手傷を負っても、殺意を持って向かってくる兵達。正に死ぬまで戦い続ける王国軍に、帝国は圧されていた。
アレクサンダーは沈黙してしまった。一度とはいえ、戦場全体を沈静化するのに、ジャンのマナもエンフィーの心力も、八割方使ったのだ。とても二発目が放てる状態では無い。
実験体の魔人は残り六体。連携も上手く、中々に各個撃破をさせてはくれない。
中には飛行能力を持つものも居て、頭上を取られる事もあり、防戦に回る時間が多くなる。
チェリー、コバルトやジョーカーの誰かが飛べば、空で囲まれ、三人が飛べば、その隙にらっくやメグミに攻撃が集中するのだ。実にいやらしい連携である。
「「また上からですか」」
チェリーが斬撃を飛ばすも、紙一重で躱す魔人。だがその刹那、
「魔導砲っす!」
暴風の魔弾に巻かれ、翼を裂かれ地に落ちる魔人!
「ハンス様!」
「主役は遅れて登場っすよ!ペネトレイトスラッシュ!」
他の魔人の間をすり抜け、落ちてきた魔人にトドメを刺す!
「街の人達はナツさんと商人達が避難させてるっす!ゴーンさんが纏めてるっすよ!俺も暴れるっすよ!」
ゴーンとは、まどか達の手足となり支えてくれた、帝都の大商人である。
「ハンス様、ナツ様はよろしいのですか?」
「こっちは任せて、ハンスは自分の仕事をしろ!って言われたっす」
「わぁ、ハンス今のかっこいい!らっくにも教えるにぃ!」
わちゃわちゃと、楽しげな会話をする一同。面白くないのは魔人達である。
「不意打ちで勝てた程度で、調子に乗るなぁ!」
一斉に襲い掛かる魔人達!
「んじゃ、らっく行くっすよ!」
「あいさー!」
「「ペネトレイトスラッシュ!」」
二人違う軌道で魔人の間をすり抜ける!その間に繰り出した斬撃は、合わせて八つ。
「「「ぐはっ!」」」
倒れる魔人達。だが全てに致命傷を負わせるには至らなかったようだ。だが、それを見逃すようなメイドと執事では無い。
「メテオストライク!」
「ソウルイーター!」
「双剣斬撃!」
魔人達は、鉄球に潰され、魂を刈り取られ、十字に刻まれ果てた。
「ほう、なるほど。邪魔なネズミ共が居るな。あやつらには大人しくなって貰おう」
アニマは立ち上がり、今しがた魔人を屠った者達に目をやる。
「断罪の霧!」
それは水晶の森に漂っていた霞。それを数倍濃縮したような煙が、渦を巻いて襲い掛かる!咄嗟に展開した風の結界も打ち破り、一同に迫る!
「爆炎陣!」
突如立ち上る巨大な火柱!煙を巻き上げ、上空に雲が湧き上がった!鼓膜を劈く轟音に大気が戦き、雲の間を稲妻が走る。
「何だ?」
アニマと一同の間に現れた逆巻く火炎は、徐々にその勢いを収めていく。すると中から、揺らめくような三つの人影が現れた。
「二人共、行ける?」
「あぁ。やっと見つけた手掛かりだ。俺はアイツに用がある」
「問題ない」
最初に口を開いた人影が、右手を横薙ぎにする。すると炎は消え、三人の姿が顕になった。
「よっ。お待たせ」
「「「「「まどか」様」お嬢様!」」」
「それに、ラキ様!」
「らっく。また会ったな」
「げげっ!それにお前は……ゼロ!」
「ふむ。問題ない」
「大ありっす!なんなんすか、いったい!」
「「ハンス様、落ち着いてください」」
「いやはや……まどかお嬢様は何時も、わたくしの分析の斜め上を行かれる」
はしゃぐらっく。メイド二人に窘められ落ち込むハンス。涙ぐむメグミ。恭しく一礼するジョーカー、チェリー、コバルト。
意外な二人を伴ったまどかに、無制限の安心感を抱き、MJ2はまた、ここに揃ったのであった。




