表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/86

最終兵器



アシムは苦虫を噛み潰したような表情で戦況を見ている。


「何なのだあれは!巨人兵を倒す力など、この世にあってたまるか!もういい!どうやら帝国も力を使い果たしたようだし……魔人共、制限を解除せよ!」


最初に現れた実験体は、未だ無傷。人の形こそ捨ててはいるが、心は人のままである。そこへアシムの命が下った。


「アレまで使うことになるとはな」


ファルカンは筒状の魔導具を取り出すと、その先端を噛みちぎった。魔導具はまるで発煙筒のように、煙を吹き出している。


「散開。撒き散らせ」


戦場を飛び回る実験体。辺りに煙が蔓延する。その煙にいち早く気付いたのはらっくである。


「これ、あの霞だにぃ」


「らっく様、大丈夫ですか?」


「いっぱい取り込まなければ大丈夫にぃ。でも魔物達は危ないにぃ!」


危機を感じとったジャン。魔導兵団を集め風の結界を張り巡らす。


「ゴルメス様、この煙は厄介じゃ。皆を集め結界の中へ」


急ぎ隊をまとめ、結界に避難する帝国軍。ゴルメスはジャンに尋ねる。


「ジャン殿、これはいったい」


「まぁ、王国の奴らを見ておればわかるのじゃ」


煙を吸い込んだ魔物達は目の色が変わり、唸り声を上げている。人の兵士達も凶暴性が高まり、結界に突進する者も多いが、中には蹲り、動かなくなる者もいる。


「この煙、暴走を引き起こす類いのものか。じゃが、吸い過ぎれば命を落とすもののようじゃな」


暴走する魔物が蹲る兵士に打ち当たると、兵士の身体が硝子のように砕ける。もはや敵味方の区別が無くなった王国軍に、戦場は狂気で溢れかえった。


「なっ!」

「それにしても、王国のやり様……儂以上の愚か者が居るようじゃな」


嘗てジャンも、死霊術師として人の命を弄ぶ実験を重ねた。皇帝の為とはいえ、その行為は許されるものでは無い。

だがまどかと出会い、打ち倒された後は、贖罪の為、皇帝の愛した民の役に立つ研究に没頭している。

王国のやり様は、狂信的に愚行を重ねた自分に通ずるものがある……と、ジャンは思った。


「なればこそ、アレを止めるのは儂の役目じゃろうな」


ジャンは外套の裏から一つの魔導具を取り出すと、マナを込め念じる。


『エンフィー様、【音叉の間】にてご準備を』


『ジャン、いつでもいけるよ』


『ご無理はなさいませぬように。儂も其方へ向いますじゃ』


魔導具をしまい、ゴルメスに駆け寄るジャン。


「ゴルメス様、儂はここまでじゃ。後を頼みましたぞ」


「心得た。ご武運を」


ゴルメスも多くを語らない。ジャンの覚悟が見て取れたからである。魔導師であるジャンに、あえて戦士の礼で応えるゴルメス。彼なりの最大の敬意を表したのだ。ジャンは滑るように皇城へと向いながら、置き土産とばかりに魔弾を乱発して行った。




城の中心に位置する、音叉の間と名付けられた空間。円形に立てられた十六本の巨大な音叉と、それを取り囲む百八本の音叉。その円形自体が魔法陣であり、その中央に設えた二つの椅子の片方に、エンフィーが竪琴を抱いて座っている。

そこに到着したジャン。消費した分を補うように、マナ回復の薬を飲むと、もう一つの椅子に座る。


「さて、時間はこの老体が燃え尽きるまでじゃ」

「その前に終わらそう。みんなで生きるんだ!」


ジャンが椅子にマナを流す。それを受けたエンフィーが竪琴を鳴らす。その旋律は護国の詩。それを受けた音叉が共鳴し、床一面に描かれた魔法陣が輝く。


「「目覚めよ。アレクサンダー!」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ