巨人兵
アシムは、思うように事が運ばず苛立っている。
もっと簡単に蹂躙出来たはず……その思いを頭を振り消し去る。
「まだ修正出来る範囲だ。どうやら帝国軍を侮っていたようだな。だがこれも想定内。ならば奥の手を出そう」
アシムはまるで、自分に言い聞かせるように呟き、切り替えるようにゴーレム兵に命令を下す。
「合身せよ!」
その言葉が齎すもの……戦場に残っている八体のゴーレムが、突進する。敵に対してでは無い、互いの身体をぶつけ合うように、中央に向かって猛進したのだ。
中央でぶつかり合うゴーレム。轟音と共に身体が砕ける!その衝撃波は、周囲の者達、敵味方の区別なく吹き飛ばした。
「なんという衝撃波だ!」
「うむ……じゃが、ゴーレム八体を犠牲にするほどでは無いのう」
ジャンの感想通り、ゴーレムの奇行には続きがあった。寧ろこれからが本番と言うべきである。
剥き出しになった八つの魔核が集まり、一つのコアになったのだ。歪に寄り集まったコアは、まるで心臓のように脈打つ。そこにゴーレムの欠片が飛来し、吸着しているのだ。
倒れた兵士の鎧や剣、盾なども取り込み、一気に膨れ上がる。
「はははははっ!これがゴーレムの真の姿。巨人兵だぁ!」
声高に叫ぶアシム。顕現したのは体長十五メートルの巨人。身体の至る所から棘ののように剣を生やし、腕の一振りで暴風を巻き起こす。
「「厄介ですね」」
巨人兵の攻撃を躱し、上空から見下ろすチェリー、コバルト。チェリーは魔核に馴染むまで、もう少しかかりそうである。
どうやって倒すか思案する二人。そこに声が掛かる。
「ここにもゴーレムですか」
目を腫らしたメグミを抱え、二人に合流するジョーカー。その場にまどかが居ない事を 二人は訝しむ。
「「まどかお嬢様は?」」
「先程のゴーレムの相手をなされておいでです」
「うぐっ……」
皆はメグミの不安を察したらしい。メイド達は、まどかが負けるなど欠片も思って居ないのだが……ジョーカーも同様で、メグミを丁寧に諭す。
「メグミお嬢様。まどかお嬢様が倒せぬ相手など、この世に存在しません。周りに被害の出ない倒し方を 考えておられるのでしょう。ですから、なんの心配もございませんよ」
「うぅ、うん、そうよね、まどかが負けるわけ無いわよね」
「我々は、まどかお嬢様にこちらを任されました。ですから今は、やるべき事を致しましょう。まどかお嬢様が戻られる前に、全て片付けなくてはなりません。あの巨人を倒せるのは、メグミお嬢様だけなのですよ」
ジョーカーの言葉に相槌を打つように、メグミの胸の水晶が輝く。同時に脳内に響く声。
『大地を騒がす傀儡に、我が鉄槌を下そう』
「わかりました。クレアさん、お借りします」
ジョーカーにそっと地上に降ろされたメグミは、水晶を両手で包み込み、祈りを捧げる。
「精霊王の加護を与えられし、メグミ=ジーニアスの名において命ずる。大地を脅かす理に外れた者に、我が身に宿りて裁きの鉄槌を下せ。顕現せよ!タイタン!」
眩い光に包まれるメグミ。自分の身体を依代として、光の中から現れたのは、ストーシティのマスター、精霊使いクレアが契約を交わした大地の精霊、タイタン!
体長十七メートル、腰布を巻き、霊樹を削りし棍棒を提げている。皮膚は岩肌の如く、逆立つ髪は深緑の森。大気は震え、大地は戦き、常人では立っていられない揺れである。
「哀れな魂無き傀儡よ、大地へ還り豊穣の礎となれぃ」




