魔核
「こいつぁ、スタンピード並だな」
「面白くなってきやがったぜ」
軽口を叩き合う冒険者。言葉通りに面白がっている訳では無い。寧ろ、笑える程絶望的な戦力である。
「やるしかねぇな」
冒険者は覚悟を決め、魔物の群れへと突進する!当たるを幸いに剣を振り回す冒険者。そこへ、
「ガキーン!」
割って入るゴーレム。冒険者の剣を弾き、体制を崩したところに、鋼鉄の拳が叩き込まれる!
「ぐふぁっ!」
後ろへ飛ぶことで、ダメージを軽減する冒険者。ギリギリ致命傷にならなかったが、継続戦闘は不可能に近い。そこへ魔物達が一斉に飛びかかる!
「ズバーン!」
冒険者の目の前、魔物は両断され、どさりと落ちる。
「そのゴーレム、わたくしに譲って頂けませんでしょうか?」
桃色の髪を靡かせ、ふわりと降り立つメイド。およそ戦場には似つかわしくない少女だが、肩に担ぐ黒刃の大鎌が、たった今自分の命を救った者だと理解させられる。
「チェリー、どうしたのです?」
その横に降り立つ、青髪の少女。抱いていた子供を下ろし、尋ねる。こちらもメイドである。
「あんた達は?」
「これは失礼しました。わたくしめ等はまどかお嬢様のメイド。チェリー、コバルトにございます。お嬢様の命により、馳せ参じました」
「おぉ、聖女様の」
優雅に一礼し、コバルトに向き合うチェリー。
「コバルト、貴女だけ性能が上がったのが、わたくし我慢なりませんの。幸いそこのゴーレムにも、魔核なるものが備わっている様子。それを頂こうと思いまして」
「そうでしたか。それがお嬢様により良き御奉仕が出来るとの判断、なのですね」
「えぇ。他の魔物はお任せしますわ」
「理解しました。らっく様もご活躍されたいご様子。こちらはお任せ下さい」
らっくは既に臨戦態勢である。爪を振り出し、身をグッと屈めて魔物を見据える。
「シャアアアッ!」
毛を逆立て、脚に力を入れる。強く踏み込まれ、地面が陥没すると同時に、らっくの姿が消えた……そう錯覚するくらいの、目では追えない急加速である。
らっくの直線上にいた魔物が数体、爪に裂かれ倒れ伏した。ヒドラの死毒に抵抗出来なかったようだ。
「さて、あちらはお任せするとして……」
冒険者と交渉中であったチェリーの背後から、ゴーレムの拳が迫る!
「危ない!」
冒険者が叫ぶ。が、チェリーの頭より大きな拳は、チェリーの片手でピタリと止められる。
「へ?」
「では、頂きますね」
「あ、はい」
間抜けな声を漏らす冒険者の了承を得て、チェリーはゴーレムに対峙する。仲間の冒険者が恐る恐る近付き、回復魔術をかけているようだ。
「なんなんだあれは、いったい」
「聖女様お付のメイド……らしい」
チェリーはゴーレムを端から刻んでいく。間違って魔核ごと切らないように、チェリーなりに気を使っているようだ。
だが傍から見れば、手足を切り落とし、首を踏みつけ、身体を少しづつ削る様は、どう考えても悪魔が嬲っているようにしか見えない。
「俺、あの人達には逆らわないようにする」
「あぁ。無表情なのが逆にアレだな」
冒険者達の新たな決意をよそに、チェリーはようやく魔核にたどり着いた。
「なるほど。これに支配の術式が……まぁこの程度であれば……」
魔族であるチェリー。精神支配系の術など、息をするように簡単である。解呪し、真新になった魔核を飲み込み、定着させる。
「これでまた動き易くなりました。残りを片付けましょう」
冒険者達には、心臓を抉り取り貪る大悪魔に見えたのだが、それを語る勇気は無かった。




