魔鋼ゴーレム
暴走するゴーレムを足止めしているまどか達。
その時、帝都の外で膨れ上がる魔物の気配をジョーカーが察知した。
「現れたようでございます」
「あぁ。チェリー、コバルト、らっくを連れてゴルメスの援護を頼む」
「「かしこまりました」」
「らっく、暴れてこい。期待してるよ」
「やっつけたら、褒めてくれるにぃ?」
「あぁ。いっぱい褒めてやる」
「頑張るにぃ!」
メイド二人はらっくの手を取り、蝙蝠のような翼を広げると、上空へと飛び立つ。ゴルメス達の戦闘地点を確認すると、瞬間移動で飛んだ。
「さてと、こいつの解析はだいたい終わった。が、正直厄介極まりないな……」
このゴーレム、ゼロの身体を構成するのは魔鋼である。しかし、ただの魔鋼では、人の肉体に馴染まない。
「完全なる金属か」
一般の鉱石にマナが凝縮したものが魔鋼である。そのベースとなる鉱石を金とし、人工的にマナを凝縮したものがオリハルコンとなる。その技術は神の領域であり、自然界には存在しない金属なのだ。
「えっ!じゃあ、どうやって倒すの?オリハルコンって破壊不可能なんでしょ?」
「方法が無い訳じゃないけど……」
まどかの戦乙女の力で、魂を輪廻に返すことは出来る。しかし、ゼロの体内には尋常ではない量のマナが無理矢理詰め込まれているのだ。魂の制御を失ったら、今の暴走所では無い。帝都の七割を吹き飛ばす程の大爆発を引き起こすだろう。
(或いはそれこそが目的か……)
まどかの推測は的を射ていた。事実、アシムが懐に隠し持つ魔導具は、ゼロの自爆装置なのだ。
「めんどくせぇ……ジョーカー、メグミを頼む。みんなと合流して」
「かしこまりました」
「ちょっとまどか、何する気?」
「コイツがここに居たら、どう転んでも帝都は崩壊する。私がなんとかするよ」
メグミは嫌な予感がした。今まで見たことない覚悟の表情……いつもであれば、近所のコンビニに行くくらいの気安さで、どんな難題も解決してしまうまどかが、決意の表情をしているのだ。
「ダメ……ダメよまどか!いや……」
「んじゃ。ちょっと行ってくる」
まどかは転移先をイメージすると、ゼロの腕を掴み、一瞬でその場から消えた。後にはまどかの名を叫ぶメグミと、それを抱きとめるジョーカーの姿だけが残された。
ゴルメス達は苦戦している。突如現れた十体の人の意志を持つ魔物。それらが開けた石壁から、王国軍が溢れ出てくる。
ゴルメスの隊に合流した他貴族の騎士や兵士達も、各個撃破をしているが、圧倒的な数の差を埋められない。そこに魔物が参戦しては、戦線の維持もままならないでいた。
「ウィンドカッター!」
「フレイムアロー!」
「アイスジャベリン!」
戦場に降り注ぐ魔術の数々。
「今だ、斬り込むぞ!」
そこに躍り出たのは、騎士でも兵士でも無い。装備もバラバラの、しかし歴戦の猛者の風格を醸す者達。
「冒険者か!」
「魔物が出たとなりゃ、俺達の獲物なんで」
「好き勝手やらしてもらいますよ!」
「てめぇら!狩りまくるぞ!」
「「「おう!」」」
湧き出る冒険者に目をやり、獰猛な笑みを浮かべる実験体。
「ならば、コイツらが相手だ」
丘の上の檻から雪崩のように降りて来る魔物。奴隷として売られ、或いは騙され、拐かされ、意志を奪われ、怒りや憎しみのみ残され魔物とされた実験体が二百体。加えて体長三メートル程のゴーレム兵が十二体。戦場を蹂躙するには過剰と言える戦力が解き放たれた。




