再会の盟友
現帝国騎士団長ロイドは言う。
「男爵様、毎回思うのですが、挨拶代わりに本気の戦闘をなさるのは、いい加減やめてください。皆が呆れております。聖女様も、修練場の石畳が砕けたではありませんか。お控えください」
だが、当の本人達は、
「まどか殿、また強くなったか」
「ゴルメスもな。団長を譲って、鈍ってるかと思ったが、剣に重みが増したな」
と、聞いてはいないようだ。
まどか達が男爵邸を訪ね、執事に応接室へ案内されたのだが、まどかは勝手に修練場へスタスタと歩いて行った。
そこで屋敷の主、ゴルメス男爵が、騎士達の修練を見ていたのだが、修練場に入るなり、まどかが手首に結んだ飾り紐を見せ、
「ゴルメス!」
と叫ぶと、ゴルメスは傍に立て掛けてあった剣を掴み、ロイド団長の制止も聞かすに飛び出した。修練場の中央で、必殺の斬撃と必殺の拳撃がぶつかる!
というのが、二人にとっての挨拶代わりになっていた。
ゴルメス男爵。まどかがこの世界に来て唯一、盟友の契りを交わした丈夫である。以前も同じような挨拶をして、周囲の騎士達を吹き飛ばしたことがあった。
その時はまだゴルメスが団長をしており、ロイドは副団長としてその場に居たのだ。会う度同じことをされては、小言の一つも言いたくなるのは頷ける。
ただし、前回の来訪と異なる点が一つ。騎士達は、二人の衝突を静観していたのだ。
それはロイドが言うような、見慣れた光景だからでは無い。寧ろ前回は、二人の繰り出した奥義に為す術なく、埒外の力に畏怖する事しか出来なかったのだ。
それが今回は、二人の技を見取り、分析し、一端に触れようとしているようだった。皆が呆れておりますなどと言ったロイドも、実はしっかり見取り、その奥義を掴みかけているのである。
「……っと、いけないいけない」
まどかはゴルメスとの会話を途中で止めると、修練場の中央へ行き地面に手をついた。マナが浸透するように修練場全体が淡く光り、石畳が元に戻っていく。
「すまないな、団長さん」
どうやら団長の小言は、聞こえていたらしい。
「それにしても驚いたな。更に騎士団の練度が上がったか」
「だけではないぞ。週に一度冒険者を招き、型にはまらぬ、より実践的な戦闘を身に付けておるところだ」
「そうか……その実践的な戦闘、間もなく使うことになるよ。王国が、動き出した」
まどかは、それでも王国の戦力には勝てないだろうと予測し、一瞬暗い表情になる。ゴルメスもそれに勘づいたのだろう、あえて快活に笑うと、
「はっはっはっ、まどか殿は正直だな。そうか、やはり動いたか」
「落ち着いているな」
「わざわざまどか殿の噂を流した理由を考えてな。こちらの士気を削ぐのが目的であろうと推測した。ならば次に来るのは、圧倒的な戦力による侵攻だろう」
「さすがだな、ゴルメス」
「いやいや、この予測を立てたのは私では無い。帝国の極秘戦力を率いる者だ」
「極秘戦力、だと?」
「まどか殿、皇城へ向かおう。陛下への報告と、極秘戦力のお披露目をする。その不安顔を晴らして見せようぞ!」
ゴルメスはそう言うと、ロイドに指示を出す。
「全隊緊急招集、速やかに準備せよ。斥候を放て!」
「直ちに」
ロイドも完結に答え、騎士達を割り振り、各人に任を与える。その迅速な対応は、目を見張る程であった。ゴルメスが自ら後任と指名した団長のロイド。彼もまた、ゴルメスに引けを取らぬ丈夫であった。




