再会のナツ
魔導列車にて事情説明をしていると、不意に声をかけられた。
「なんだ、ハンスじゃねぇか!帰って来たのか?このやろう。まどかも久しぶりだな」
乱暴な言葉使いだが、嬉しさが端々に滲み出ている。その口調に似合わず、赤髪タレ目の少女は、細身だが主張する胸にサラシを巻き付け、短パンタンクトップという、動きやすさ重視の出で立ち。
シノックシティにて親の後を継ぎ、荷役を取り仕切る親方、ナツである。見た目の可愛さもさることながら、情の厚さと気風の良さで、荷役達からはお嬢と慕われている。
「ハンス、ゆっくり出来んのか?」
「ナツさん、今それどころじゃないっすよ」
ハンスの物言いに、ナツは少し寂しそうに俯く。実はナツは、ハンスに淡い恋心を抱いており、次に帰ったら、手料理をご馳走すると約束していたりするのだ。
「ナツさん、急いでシノックに帰るっす」
ナツのしょんぼりは更に増した。好意を寄せる男と再会し、密かに特訓した料理を食べさせたい……
『美味いっす!これならいつでも嫁に行けるっすね』なんて言われて
『だったらハンス、あたしをもらってくれるかい?』とか言って二人はそのまま……キャー!うふふ……
などと、瞬間的に妄想していたのに、再会を喜び合うどころか、いきなり帰れと言われたのだ。
ハンスにそのような意図は無いのだが、
『顔も見たくない。帰れ!』
と言われた気がして、今にも膝から崩れそうだ。その様子を察し、まどかが声をかける。
「ハンス、言葉が足りなすぎだ。ナツ、久しぶり。会って早々すまない。実は帝国に向けて、王国軍が進行を始めた。帝都は間もなく戦争になるだろう。今行けば巻き込まれるかもしれない。出来ることなら、このまま引き返して欲しい。ハンスも、ナツを危険な目に合わせたくないんだよ」
まどかの言葉を聞いて、ナツはしょんぼりから瞬時に回復する。会いたく無かった訳ではなく、自分の身を案じて……
『お前は俺が守るっす!』的な?ヤダ、愛され過ぎて辛い……
またもや妄想に突入し、少し頬が赤く染まっているようだが、それは嬉しさか、怒りか……ハンスをキッと睨み怒鳴る。
「このあたしに、しっぽを巻いて逃げろだと?巫山戯んじゃねぇぞ!確かに、あたしらは戦えねぇ。だがよ、街の奴ら避難させるくらいは出来んだぜ。舐めんなこのやろう!引っこ抜くぞ!」
ナツは多少の嬉しさと、自分だけ逃がされることの切なさと、ハンスの役に立ちたいという思いの綯い交ぜになった感情を 素直にぶつけた。ハンスはナツの真剣な目を見て、少しの間思案する。次にちらっとまどかを見ると、まどかは一つ頷きを返した。
「……わかったっす。帝都にいる間は、俺から離れないで欲しいっす。ナツさんは……俺が守るっす!」
ナツは何かを撃ち抜かれた。「ちょっ、ばっ、みんなの前で……」などと一人あたふたしている。妄想していた台詞を まさか現実に聞かされるとは……挙動不審なナツにハンスは、
「いいっすか?」
と、確認をすると、
「……はい」
と、今まで見たことの無いしおらしさで、コクリと首を縦に振った。ナツにとって、今日のハンスの言葉は、プロポーズと言っても過言ではない……天国の親父、あたし、嫁に行きますっ!
(ハンスが帝都にいる間と言ったことなど耳に入っていない)と、ナツが思っていることなどハンスは知らない。まどか達は気を利かせたのかハンスを残し、帝都へ転移するのだった。




