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また一難



「あまり良い予感はしないなぁ……」


砂煙は次第に大きくなり、こちらに近づいてくる。


「早いにぃ!もしかしたら、でっかいトカゲかもしれないにぃ!」


らっくの言葉に、全員が身構える。捕獲する気満々である。一人まどかだけは、漠然とした危機感を感じているが……


「そろそろ来るっすよ!」


ハンスは何時でもネットを撃てるように構える。メグミも樹木魔術の詠唱に入った。ジョーカーとチェリーは、囮として何時でも飛び出せる。コバルトは鉄球の鎖を伸ばし、相手に巻き付けるつもりでいるようだ。


「まずは顔を出させましょう」


ジョーカーはそう言うと、収納から爆弾岩を取り出し、砂煙の前に投げる。爆風に煽られ、砂煙の中から魔物が飛び出す。


「「「え?」」」


空中に躍り出たのは、全長六メートル程の魔物。砂地には不似合いな姿、灰銀の肌で鋭い歯が幾重にも並ぶ大きく開かれた口、元の世界で昔、映画で見た姿である。


「さ、鮫?」


魔物は胸びれを広げると、トビウオのような透き通るヒレを使い、空を泳ぐように方向を変え、こちらに迫って来る。


「ちっ、なんでもありかよ!」


驚きに一瞬呆ける皆の前に、まどかが飛び出し、魔物の鼻先を拳で打上げる!

身体を捩って躱した魔物がまどかに接触、ヤスリのような肌でまどかの腕を削り、尾ビレを打ち付ける!


「くはっ!」

「「「まどか(様)っ!」」」


魔物はそのまま砂に潜り、気配を殺す。まどかは初級の回復魔術を使い、腕を癒す。擦り傷と言うには余りにも酷い、皮を剥ぎ取られた様な姿が、じわじわと治っていく。


「だ、大丈夫。みんな気をつけて。どこから来るかわからないよ!」


まどかの足下の砂が隆起する。まるで血の匂いを嗅ぎつけ、獲物を甚振るが如く、執拗にまどかを襲う魔物。少しでも触れれば削られてしまうのだ、まどかはギリギリのところで躱している。


「援護するわよ」


メグミ矢を放ったと同時に、皆が一斉に動く。

魔物は空を泳ぎ、矢を躱す。が、既に詠唱を終えていた樹木魔術を発動。魔物が躱した矢は茨となり、魔物に巻き付いていく。

魔物がのたうつように暴れる度に、ガリガリと茨の拘束が削れている。メグミは立て続けに矢を放つと、その全てを茨に変えた。

胸びれを胴に縛り付けられた魔物が、重力に従って落ちてくる。どうやらあの透き通るヒレが、空を泳げる元であるらしい。


「ネットはすぐに破られそうっすね。これならどうっすか」


ハンスが選んだ攻撃は、氷雪魔術。義手の梵字が青白く光り、掌から吹雪を放つ!

コバルトが鉄球の鎖を尾ビレに絡め、その動きを封じると、チェリーが死毒魔術を放つ。即死はしないものの、明らかに動きが鈍くなる魔物。ジョーカーが魔物の口に爆弾岩を放り込む。爆発で鋭い歯は半分以上が吹き飛んだ。


「らっく!」

「あいさー。操獣!」


らっくが魔物をテイム出来なかった場合、即座にトドメを刺せるように、まどかは身構える。だが、らっくが必死に頑張っているのだ。まどかはギリギリまで待つ気でいる。


(らっく、頑張って)


魔物は最後の抵抗とばかりに、拘束を振りほどこうとしている。茨の数本は、既に擦り切れていた。コバルトの鎖も、ギリギリと金属が擦れる音を発している。


(限界か)


まどかがトドメを刺そうと拳を握りしめた時、らっくが叫ぶ。


「めっ、おりこうさんに、なるにぃっっ!」

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