一難去って
まどかは、商人からだいたいの距離と方向を聞く。
美少女に凄まれてビクッとなった商人だったが、帝国に知人でも居るのだろうと思い、巻き込まれたらタダでは済まない、今行くのは危険だと心配してくれた。ギルドカードを見せると驚き、なぜか納得顔になると丁寧に教えてくれた。
帝国で聖女と慕われる英雄の噂を この商人も知っていたらしい。終いには、手を合わせ祈りを捧げていた。まどかは居心地悪そうに苦笑いをするしか無かった。
転移魔術を使えるまどかではあるが、現在地がわからなければ、術の行使が難しい。出来なくは無いのだが、思った座標に飛べ無いのだ。
元の世界で言うなら、旧式のカーナビでマップの更新が出来ないうえ、電波状況が悪くルート検索が出来ない……又は、普段乗らない電車で寝過ごして、終点まで来てしまい、どうやって帰ればいいのかわからない状態……といった所であろうか。
土地勘などある訳がない異世界では、尚更である。勝手に飛ばされ、右も左も分からない場所からの移動は、困難を極めるのである。
「一か八かで転移するのはリスクが高過ぎる。自分の足で行くしかないか」
とはいえ、直線でも並の冒険者で丸二日かかる距離である。しかも砂漠地帯の道なき道を強行しなければならない。当然デザートワームのような凶悪な魔物達に襲われながらである。
しかし砂漠地帯を避け、迂回ルートを通るならば五日以上かかる。戦端が開かれる前には、辿り着けない可能性が高い。
(どうする?誰か掴まえて、帝国まで運んで貰うか?いや、それだと巻き込んでしまうな……)
まどかは辺りを見回す。そこには、打ち捨てられた荷車があった。と言っても車輪が付いている訳ではなく、砂漠地帯を走ることを前提にした、ソリである。
(使えそうではあるが、どうやって走らせる?)
すると、ソリを見たらっくが、
「あ!あれ乗ったことあるにぃ!」
「らっく、知ってるのか?」
「でっかいトカゲが引っ張るにぃ!速かったにぃ!」
(なるほど。テイムした魔獣に引かせるのか)
らっくに引かせるのは無理だろう。獣身化の疲労が抜けきっていない上に、再度の使用は危険である。
「……らっく、操獣、出来る?」
「うーん……やってみないと、分からないにぃ……」
しかし、迷っている暇は無い。まどか達は取り急ぎ、ソリを引くのに適した魔物を 探す事にした。
「ジョーカー、このソリ、次元収納出来る?」
「容易にございます」
まどか達はソリを収納し、魔物を捕獲するまでの間、徒歩で帝国を目指すことにした。
「しかし、居ないもんだな……」
現在まどか達は、帝国の方角へと駆けながら、魔物を狩っている。お目当てのオオトカゲ、サンドドラゴンには中々遭遇せず、出没するのはデザートワームの劣化版……(と言ってもデザートワームの方が異常個体なのだが)サンドワームや、サソリ型の魔物、蟻のような魔物ばかりである。
途中、メグミの思いつきでソリを取り出し、まどかの土魔術で足下を砂山にして傾斜をつけ、滑り降りるという方法を取っている。勢いが付けば早いのだが、魔術で地面を盛り上げる度、振動を感知した魔物が寄って来るのだ。今もソリで滑りながら、すれ違いざまにサンドワームを数体切り刻んだところであった。
「いまいち効率が良くないなぁ……」
次の砂山を作りながら、まどかが呟いた時、遥か前方に砂煙が上がるのが見えた。




