オアシスの街
グリンシティ。
砂漠地帯の中にあって、唯一のオアシスが街になった場所。とはいえ、定住者が居るわけでは無く、砂漠地帯を渡る商人達が立ち寄り、他の商人との情報交換や売れ残りの処分、水の補給等をしている。
砂漠地帯の周囲には三つの街があり、西へ行けば帝都、南へ行けば港街のハクタンシティ、北へ行けば王国である。
デザートワームとの闘いを終えたまどか達は、体力の限界に来ていたらっくを休ませる為に、グリンシティに立ち寄ったのだった。
「オアシスがあって助かったな」
「そうね、わたしもぶっちゃけ休みたかったし」
まどかは水辺に腰をおろし、らっくに膝枕をしている。隣にメグミが座り、時折らっくの頭を撫でている。
ハンスはコバルトと共に、ジョーカーはチェリーと共に、荷解きをしている商人に声をかけている。めぼしい物があれば購入し、同時に情報を仕入れているのだ。
「さっきの森で矢を使い切ったから、あるなら仕入れたいなぁ」
「そうだね。落ち着いたらメグミも見てきなよ」
「うん。そうする」
と言いながら、まどかの肩に頭をもたれるメグミ。今は身体を休めるのが最優先なのだろう。らっくをモフりながら、極上の癒しを満喫している。
「ぐきゅるるる……」
そこにあまり可愛くない音が響いた。
「お腹すいたにぃ……」
どうやら、らっくが空腹のあまり目が覚めたらしい。
「あはは、軽く何か食べるか。らっく、起きれるか?」
「大丈夫だにぃ。はらぺこで力が入らないだけにぃ」
まどかは収納から、おにぎりと干し肉を取り出す。
「慌てないで、ゆっくり、ちゃんと噛んで食べるんだぞ」
疲れた身体に、味の濃いものはキツい。らっくは具のないおにぎりに少し不満のようだが、言い付け通り良く噛んで食べている。
「私達も食べとくか」
「うん」
まどかとメグミもおにぎりを手に取った。そこにタイミングよくハンスも戻ってくる。
「あ!まどか様、俺も欲しいっす!」
「ハンス、慌てないで、ゆっくり、よく噛んで食べるにぃ」
どうやら真似をしたいお年頃らしい。ジョーカーも戻り、野菜を煮込んだスープとお茶の用意をしてくれている。
そこへ慌ただしく、商人の一団が駆け込んできた。もうもうと舞う砂埃に、まどかは風の結界を張る。
「ったく、食事中にバタバタしないで欲しいな」
その商人は何やら喚いているが、結界で聞こえない。だが、周囲で荷を解いていた他の商人達が、慌てて荷造りを始めた。
「何かあったようですございますね」
「わたし、矢の補充まだなんだけど」
ジョーカーとメグミが、結界の外に出る。メグミは、矢は無いかと商人に尋ねているが、それどころでは無いと、取り合ってはくれない。
数人に声をかけると、ようやく矢を持っている商人がいた。
「欲しけりゃ持ってけ!それどころじゃねぇんだ!」
「何かあったの?」
「あぁ?王国軍が、大々的に進行しているらしい。帝国を攻めるそうだ。こうしちゃ居られねぇ」
商人達は大きく二つに分かれる。大半は、戦争に巻き込まれたくない派。行軍中の兵士達は、近隣の村や旅の商人に、徴用という名の略奪をする事が少なく無い。故に、出会す前に逃げろ……という者達だ。
残りは少数派だが、戦争中の物資不足に商機を見出す者。国軍の兵士相手に一歩も引かず、堂々と渡り合って荒稼ぎをしようと目論む者である。
「帝国を攻める、だと?」
まどかは理解した。帝国攻めの障害になる自分達を排除するのが、奴らの目的だったのだと。
まどかは商人を掴まえ、語気を強くして尋ねた。
「ここから帝国へは、どう行けばいい?」




