本能
らっくの捕獲とデザートワームの討伐を同時進行することになったまどか達。
状況は、思わしくない展開であった。らっくが暴走したのである。禍々しいオーラに包まれ、攻撃の矛先をまどか達に向け始めた。
らっくの職業、操獣士が持つ固有スキル、操獣によって、デザートワームがらっくに付き従っているのだ。新たに二体のデザートワームが参戦し、らっく捕獲の邪魔をしている。
ヘタに威力の大きい魔術や攻撃では、らっくまで巻き込んでしまう。なにより、デザートワームに攻撃を仕掛けると、らっくが庇うのである。ジョーカー達は、らっくを躱しつつ小技で削る方法しか取れないでいた。
「ずっと練習していた操獣のスキルが、霞の影響で底上げされたのか……」
事実らっくは、理性が希薄になり、本能的にスキルを使っているのだ。理論や術式など一切関係ない、当人でさえ意識しないまま、スキルを行使している。
「出来るようになったのは喜ばしいけど、今はちょっとな……反抗期かな」
「まどか、親バカやってないで、なんとかしてよっ!」
「お、おぅ……ちょっと加減すればいけるかな……雷陣、スタンボルト!」
まどかは雷を身に纏い、肉の柱へと飛翔する。落雷のような大気の爆ぜる音が、一瞬遅れて届いた。
手当り次第にデザートワームに拳を突き立て、蹴りを放つ!それを庇うように割り込んだらっくを まどかは正面から抱き止めた。
放電により一時行動不能になるデザートワーム。まどかはそれを蹴りつけ、らっくを抱いたまま距離をとった。
「メグミ!ハンス!」
「蔦拘束!」
「スパイダーネット!」
まどかの着地と同時に、メグミの樹木魔術で拘束し、ハンスがネットを重ねがけしてマナを吸い取る。そこに操獣のスキルが解除されたのか、スタン状態から回復したデザートワームが、一斉に襲いかかる!
「「「させません!」」」
瞬間移動で割って入るジョーカー、チェリー、コバルト。
「夢幻剣舞!」「魂の収穫!」「メテオストライク!」
残像を引き連れ、エストック二刀流で舞うように切り刻むジョーカー。黒刃に紅の紋様を纏うデスサイズにて、魂ごと刈り取るチェリー。振り出された鉄球が大気との摩擦で灼熱を帯び、降り注ぐ隕石の如く打ち付け粉砕するコバルト。
先程までの小手先のものでは無い、確殺の攻撃を叩き込む三人。デザートワームは、砂漠地帯の僅かな養分となった。
ハンスは、藻掻くらっくの動きに合わせて、糸が切れないように調整している。大物を釣り上げる釣り師のように、緩め過ぎず張り過ぎず、絶妙なバランスである。
「らっく、もう少しの辛抱っすよ」
「らっく、獣身化を解くんだ!」
「「「らっく様」」」
「らっく、頑張って!」
それぞれがらっくに呼びかける。その声が届いたのか、らっくの瘴気が霧散し、その身体を次第に縮めていく。
「……にぃ」
元の姿になったらっくは、力尽きたように倒れた。キャパオーバーの力を使い、身体が追いつかなかったのだろう、らっくは所謂、酷い筋肉痛の状態にあるようだ。
「らっく、よく頑張った。偉いぞ」
まどかはらっくに駆け寄り、膝の上に抱き上げると、優しく撫でながらそう呟く。
「たっちゃん……」
力無く答えたらっくは、安心したのか、まどかの膝の上でその意識を手放した。
「おやすみ、らっく」
寝息をたてるらっくに、まどかは優しく声をかけるのだった。




