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爆走!爆走!爆走!



メグミは進路確保の為に、貫通特化の矢を正面に連続で放つ。森とはいえ水晶の如き木々は、光の濃淡がほとんど無く、距離感が掴みにくい。メグミの矢は、その距離感を掴む為の目印にもなるのである。


「はっ!」「ふんっ!」「それっ!」「邪魔です」「うらっ!」「ガウッ!」


霞はハンスが風の魔導砲で払い、襲い来る魔物は、前方をらっくの爪と牙、まどかの拳で対処し、左右をチェリーの大鎌とコバルトの鉄球が、後方からの追撃には、ジョーカーが取り出した爆弾岩を投げている。


霞のマナ阻害の効果は、それ程高くは無いのだが、放出系の魔術は、微妙にコントロールを乱される。魔力弾が逸れたり、思った程の威力が無かったりと厄介なのだ。という訳で、専ら攻撃は物理であった。


「グルルルル……ガウッ」


魔物達の攻撃に、らっくの集中力が乱される。ここで破壊衝動に塗りつぶされては、まどか達も無事では済まないだろう。獣の唸りを上げながらも、必死に抑えている。


「らっく!攻撃は任せろ!走ることだけに集中するんだ!」


「ニルル!」


どうやら、にぃ!と言いたかったらしい。まだまどかの声は、届いているようだ。


ジョーカーが爆弾岩で吹き飛ばした魔物達の血肉が、らっくの駆け抜けた跡が直線である事を示している。正に最速最短まっすぐである。

しかし、平気へっちゃらという訳では無い。時折襲い来る破壊衝動と闘いながら、らっくはただひたすらに正面を見据え、駆けている。


やがて魔物の数が減り、攻撃の濃度も下がってくる。諦めたように引き返す魔物も出てきた。


(出口が近いのか?)


まどかはらっくの首筋を優しく撫で、耳元で囁く。


「もう少しだ。がんはれ」


らっくはもう一段スピードを上げた。メグミが最後の矢を放ち、眼前の水晶が砕けたその時


「グルアァァァッ!」


大きく飛んだらっくが着地したのは、草も疎らな砂地だった。辺りは広大な砂漠地帯。まどか達は水晶の森を抜けたのだ。皆はらっくから降り、安堵のため息を漏らす。


「ストーンウォール」


まどかは、抜けてきた森から霞が漏れないように、土魔術の壁で塞ぐ。某科学実験の、穴を開けたダンボール箱のように、森からリング状の煙が吹き出ていたのだ。


「天然の空気砲かよ」


まどかの呟きにメグミはクスクスと笑う。ハンスは口を覆っていたネットを外し、深呼吸する。


「らっく、獣身化を解除するんだ」


だが、らっくは獣身化を解かない。砂地を睨み、低く唸っている。


「まさか、暴走?」


その場を強く踏み込み、高々とジャンプするらっく。その瞬間、らっくが睨んでいた砂地が爆ぜる。


「ズドォーン!」


空へと伸びる柱。その正体は、胴回りが五メートル以上ありそうな、デザートワームである。


らっくはまどかと再会する以前に、一度戦った事があった。その気配にいち早く反応したのだ。

まだ完全に暴走した訳では無いが、このまま戦闘を続ければ、暴走は避けられないだろう。まどかはそれを感じ、速攻での討伐を選択した。


「ジョーカー、チェリー、コバルト、行け!」


「「「かしこまりました」」」


「メグミ、合図したららっくの拘束を!」


「わかったわ」


「ハンス、メグミが捕らえたら、マナ吸収」


「承知!」


「私は、らっくを抑える!」


それぞれの役割を果たすため、一斉に飛び出すまどか達。マナの阻害が消えた今、全力の戦闘が開始した。

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